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ヤマハ発動機と自動運転のティアフォー(名古屋市)が共同で、ゴルフカートをベースに開発した自動運転車で工場敷地内の搬送を無人化。車両や運行システムを一括してサービスとして提供する。車両の工夫と工場内ルールの両面で安全性を確保し、公道での自動運転よりも先に実績の積み重ねを狙う。(聞き手は木崎健太郎)

eve autonomy 代表取締役CEOの米光 正典氏(写真:早川俊昭)
eve autonomy 代表取締役CEOの米光 正典氏(写真:早川俊昭)
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 物流にはいろんな課題があります。組み立てや加工の工場に限らず倉庫とかプラントとか、ものを運ぶニーズのある所での課題の解決を目指しています。それをサービス事業として提供するのがeve autonomyです*1

 工場でも課題はいろいろとあります。頻繁にレイアウトが変わるとか、1つの建物だけでは製品が完成しないとか。ある建屋で加工して、別の建屋で熱処理して、それをまた別の建屋に持っていって組み立ててというように、1つの敷地の中で建屋を行ったり来たりと搬送して製品を完成させる工場があります。そこで活躍しているのがフォークリフトとか手押し台車、けん引車、トラックです。そのための作業者が必要という状況が20年、30年前から変わっておらず、屋外で無人搬送を実現するソリューションはありませんでした。

 人が運ぶことにまつわるいろいろな課題があるので、単純な作業はロボットにやらせて、人はもっとクリエイティブな仕事を担うべきだという考えが浸透してきています。そもそも人材確保が困難だという社会課題もあります。運ぶ作業はロボットに自動運転でやらせて、人の働き方を変えていく、というのが我々(eve autonomy)の役割です。

*1 eve autonomyは、ヤマハ発動機とティアフォーの合弁会社。2020年2月に設立された。

スタートはヤマハ発動機の浜北工場

 もともとは、ヤマハ発動機浜北工場のプロジェクトとしてスタートしました。浜北工場は、搬送に関して先ほど述べたような課題を持っていました。自動で運びたいと考えても、工場の建屋内で使われている自動搬送車(AGV)は建屋の外を走れません。段差があったり傾斜があったりするとその先に進めませんし、建屋の外に出るとトラックやフォークリフトが盛んに行ったり来たりしていて、AGVを隣の建物まで走らせるのはちょっと難しい。

 ところで、ヤマハ発動機の製品の1つにゴルフカートがあります。ゴルフカートなら屋外を走って重たい荷物を運べる。これを何とか自動化できないかという考えでプロジェクトがスタートしました。それが2018年のことです。ヤマハ発動機と自動運転のティアフォー、2社の共同開発で2019年にはレベル3の自動運転で走れるようになりました。レベル3ですから人がまだ乗っている状態なのですけれども、自動運転は可能だと見えてきた。これは工場の改善目的で取り組むだけではもったいないので、ちゃんと事業にして社会に出していきたいということでeve autonomyを設立しました。

 AGVはタイヤが小さいので、平たんでぴかぴかの床で運用する必要があるのと、1回ルートを決めたらそう簡単に変えられないという弱点がありました。ルートに磁気テープを貼る方式が一般的ですが、建屋の外でアスファルトに磁気テープを貼るのも難しい。そこへいくとゴルフカートはもともと電磁誘導で自動運転しているのです。地面に誘導線という電線を埋め込んでいます。

 でもそれを工場に適用しようとすると、道路の工事が必要になる。アスファルトにカッターを入れて、配線埋め込んでと大変な工事になります。しかも、後でルート変更する場合もありますし、外の道路だけでなく建物の中も含めて工事するというのは現実的ではありません。