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 生分解性かつ植物由来のプラスチック、ポリ乳酸(PLA)100%で肉厚0.65mmの薄肉製品を射出成形。これができればPLAは1回利用のプラ製品に最適な素材になる。極めて困難と思われた成形を、プラスチック・ゴムの国際展示会「K2019」(2019年10月16~23日)で世界で最初に実演展示してみせたのが、日精樹脂工業と小松技術士のグループだった。(聞き手は木崎健太郎=日経クロステック/日経ものづくり、中山 力=日経クロステック/日経ものづくり)

(写真:栗原克己)
(写真:栗原克己)
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 「会場レストランで使う食器類は、植物由来で自然へ帰るプラスチックで提供する」と小泉純一郎首相(当時)が国会で発言したのが、愛・地球博(2005年日本国際博覧会、同年3月25日~9月25日)が始まる直前でした。そういうプラスチックがあるならぜひ使っていきたい、と思ったのがポリ乳酸(PLA)に取り組み始めたきっかけです。

 私はメーカーで石油由来のプラスチックを使う金型の設計技術者でした。製品がいずれはごみになって自然環境に影響を及ぼすと思ってはいましたが、それほど深刻ではないのだろうという意識でした。ところが、分解するタイプのプラスチックが出来たと聞いた以上、普及のために取り組まなければ、と思いました。

 早速PLAのメーカーに電話をしてみたのですが、なぜかあまり相手にしてもらえず、唯一フレンドリーに話してくれたのがユニチカでした。

金型から剥がれないプラスチック

 「実は困っていることがあるから一度研究所に来てもらえないだろうか」。行ってみたら、愛・地球博向けに相当な数のどんぶりをPLAで造ることになったのに、それができないのだというのです。同社のPLA自体は電子レンジでも使える素晴らしい素材でした*1。「なにが問題か」と聞いたら、どんぶりが金型の中で固まったあと、ぎゅーっと張り付いてしまって取り出せない*2。それが2月でしたから、3月末の開会に間に合わない。

*1 PLAは通常、熱湯に耐えるだけの耐熱性がないが、層状ケイ酸塩(粘土)を20nmくらいに砕いて微分散(ナノコンポジット化)させ、耐熱性を高めた。粘土粒子が核になってPLAの結晶を維持する。粘土粒子は生分解しないが、もともと土であるため有害物質として残るわけではない。
*2 固化後の収縮のため、金型のコア側を締め付けるように固着してしまう。

 「どうすればよいか考えてほしい」と言うので、「考えますから金型の費用を準備してください」と返したら「予算はない。でも材料だけはいくらでも用意できる」と。そこで別途お金の算段をしました。ちょうど新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に、アセアン諸国との共同研究に研究費を補助するという支援プログラムがありました。知り合いだったタイの国立研究所の所長に聞いてみて、一緒にやってみようという話になり、コンペに出してみたら採択され、補助金の対象になりました。

 どんぶりを造る方法を考え、金型と成形機も造りました。コーヒーなどの熱いものを飲めるカップも成形できるようになりました。愛・地球博には間に合わなかったのですが…。