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 米アップル(Apple)がiPhoneの旧機種の動作速度を意図的に落としていたとされる「iPhoneの速度抑制問題」。バッテリー劣化によるiPhoneの予期しないシャットダウンの頻発を防ぐのが狙いとされている。この問題に対してどう考えるべきなのか。あるいはアップル製品にからむトラブルにどう対処したのか。識者に語ってもらった。

 米アップルがバッテリーの劣化したiPhoneの一部機種に対し、パフォーマンスを意図的に落とす仕組みを導入していたことが、大きな波紋を呼んでいる。こうした問題が起こる背景には、取り外せない内蔵式バッテリーが主流になったことが背景にあるとみている。そもそもなぜ、消費者は取り外せないバッテリーを容認するようになったのだろうか。

バッテリー内蔵ゆえの速度低下措置

 2017年末から2018年初めにかけて、大きな話題となったのがiPhoneのバッテリーに関する問題だ。アップルはiPhone 6、iPhone 6s、iPhone SEなど一部機種を対象に、内蔵のバッテリーが劣化した際にパフォーマンスを抑える仕組みを搭載していたことが明らかになった。

 アップルは公式見解として、こうした仕組みを導入したのには、バッテリーが劣化したiPhoneを使っていると、最大のパフォーマンスで動作した際にバッテリーが性能面で応えられず、突然シャットダウンしてしまう可能性が高まるためとしている。シャットダウンしてしまうよりも、全体のパフォーマンスを落として継続的に利用できたほうが顧客の満足度が高まるとの判断から、取られた措置のようだ。

 だが2017年1月、この仕組みを導入したiOS 10.2.1を配信した際に、アップルはユーザーに対してパフォーマンス低下に関して明確な説明をしていなかった。それゆえ「意図的に製品の性能を落として端末の買い替えを促進していたのではないか」という見方が広がり、大きな批判を集めるに至ったと言えよう。

バッテリー劣化に対応するためのパフォーマンス低下が実施されたのはiOS 10.2.1からで、iPhone 6、iPhone 6sなどがその対象となっている。写真は2015年9月25日のアップルストア表参道におけるiPhone 6s/6s Plusの発売イベントより(筆者撮影)
バッテリー劣化に対応するためのパフォーマンス低下が実施されたのはiOS 10.2.1からで、iPhone 6、iPhone 6sなどがその対象となっている。写真は2015年9月25日のアップルストア表参道におけるiPhone 6s/6s Plusの発売イベントより(筆者撮影)
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 そのためアップルは、iOS 11.3でパフォーマンス制御をユーザーがコントロールできる仕組みを導入することを明らかにしたほか、速度制限の対象となるiPhoneのバッテリー交換をする際の金額の大幅な引き下げも実施するなどの対応を迫られた。日本でも8800円から3200円と、バッテリー交換の価格が半額以下に下げたことも話題となっている。

 アップルにどのような意図があったにせよ、理由を明確に説明しないまま、意図的にパフォーマンスを低下させるというのは、消費者に対して決して好ましい行為とはいえないだろう。だがそもそも、こうした事象や問題が起こってしまう背景には、ユーザーが自分でバッテリーを交換できなくなったこと、つまりバッテリー内蔵型のスマートフォンが主流になってしまい、ユーザーに見えない部分が増えてしまったことにあるのではないかと、筆者は感じている。

薄さの追求が招いたバッテリー内蔵の流れ

 フィーチャーフォン時代を振り返ってみれば、バッテリーは着脱式で自ら交換できるのが当たり前だった。日本であれば大手キャリアの保証サービスに入っていると、端末購入1年経過後に交換用のバッテリーがプレゼントされる仕組みなども用意されていた。だがiPhoneは初代モデルからバッテリー内蔵型の機構を採用しており、バッテリーを交換するにはApple Storeなどに行く必要があった。

2011年にauが発売した「ARROWS Z ISW11F」の裏蓋を外したところ。以前はiPhone以外のスマートフォンであれば、ユーザーがバッテリーを着脱できるものが一般的だった。写真は2011年9月26日のau新商品・新サービス発表会より(筆者撮影)
2011年にauが発売した「ARROWS Z ISW11F」の裏蓋を外したところ。以前はiPhone以外のスマートフォンであれば、ユーザーがバッテリーを着脱できるものが一般的だった。写真は2011年9月26日のau新商品・新サービス発表会より(筆者撮影)
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 バッテリー内蔵型を採用した理由はデザイン面にあったと考えられる。アップルはユーザー体験を非常に重視し、デザインにも妥協しない姿勢が評価されていることから、バッテリーを着脱式にすると思い通りの背面デザインを実現できないとの判断、それまでの携帯電話やスマートフォンではあまり見られなかったバッテリー内蔵を取り入れたといえる。iPhoneは音楽プレーヤー「iPod」の発展形という見方もあることから、同じくバッテリー内蔵型であったiPodのスタイルを踏襲したとも言えるかもしれない。

 だがそれでも当時の他のスマートフォンは、まだバッテリー交換できる製品が一般的であり、iPhoneのようなバッテリー内蔵型は不便との見方が多かった。その流れが大きく変わったのは、スマートフォンに薄型化を追求する流れが出てきて以降であろう。