米アップル(Apple)がiPhoneの旧機種の動作速度を意図的に落としていたとされる「iPhoneの速度抑制問題」。バッテリー劣化によるiPhoneの予期しないシャットダウンの頻発を防ぐのが狙いとされている。この問題に対してどう考えるべきなのか。あるいはアップル製品にからむトラブルにどう対処したのか。識者に語ってもらった。
既に話題のピークを過ぎてしまった感もあるが、「iPhoneの性能抑制問題」あるいは「iPhoneの“計画的陳腐化”問題」は、米アップル(Apple)が抱える成長と既存顧客の間でどう戦略を舵取りするかのジレンマを表していると思える。同社の成長のためには、新しい機能を盛り込んだ新製品をリリースして次々とユーザーに買い換えてもらいたい。一方、同社の製品を気に入って使い続けている既存顧客をつなぎ止めることも重要だ。
同社の売り上げはApp Storeの収益のほか、Apple MusicなどAppleの関連サービスの収益も増えている一方で、いまだiPhoneに多くを依存している。1つの製品を長く使い続ける既存顧客は重要とはいえ、やはり新製品を出したら次々と乗り換えてもらいたいというのは、企業としての本音だろう。
現在スマートフォンの買い替え周期は2〜3年程度といわれる。ただ以前まで日進月歩だった性能進化は止まり、近年ではユーザーが手持ちの製品に満足して長く使い続ける傾向にある。このため、買い替え周期は延びつつあると考えられている。
実際、iPhoneの年間販売台数はここ数年2億2000万台前後で足踏みが続いている。これは「市場での拡大限界に達しつつある」「既存ユーザーの買い換えを促す提案ができていない」という2点の理由によると思われる。
やってこなかった「iPhone X」のビッグウェーブ
Appleは新機軸を狙って投入した「iPhone X」により、この膠着状態の解消を期待していたとみられる。これまで買い控えしていた既存ユーザーが新機種へと乗り換え、同時に新規ユーザーの取り込みも可能にするというものだ。また1000ドル以上といわれる製品単価の上昇により、Appleの売り上げ自身も大きく押し上げるのではないかと考えられていた。
こうした買い換えサイクルの到来などの要因が重なって売上が最大化される現象は、投資家の間で「スーパーサイクル」(Super Cycle)の名称で呼ばれることがある。もともと株式投資のテクニカル分析などで用いられる「エリオット波動理論」が語源とみられるが、iPhoneの買い換えサイクルが長期化する傾向にあるなかAppleの業績を読み解くうえで買い換え需要喚起の期待を込めたキーワードだったといえる。結果としてiPhone Xはその期待に沿うことはなかったが、Appleがこの製品に込めた願いは今後リリースされる製品にも脈々と受け継がれていくことになる。
そしてスーパーサイクルにおけるもう1つの側面であるiPhoneの「計画的陳腐化」だ。本来の目的は「古い製品を少しでも長く使えるようにするための配慮」だったと思われ、一部で考えられているような「意図的に性能を落として買い換えを促す」が主目的ではなかったと思っている。もっとも、結果として買い換えを促す効果を持つわけで、前述のAppleのジレンマにおける買い換えサイクル長期化の解消に期待する部分も少なからずあったのではないかと推察する。