インターネット上の仮想世界「メタバース」は、ビジネスプラットフォームとして巨大市場を形成するのか?
社名を「メタ」に変更した米フェイスブック(旧)をはじめ、世界中の大企業がメタバースに注力する姿勢をにわかに示している。例えば、NTTが2021年11月開催の「NTT R&D FORUM」で公開した、「Another Me」という研究はぶっ飛んでいて面白い。個人の思考や記憶などをメタバース上に再現し、発想・意思決定を支援する技術を開発したり、現実環境のさまざまな機会で分身(アバター)と協力・分担し、その経験を自分や他人と共有可能にしたりする技術を35年までに実現するという。「Another Meがオンライン会議に出席して、自分の代わりに意思決定をしてくれるようになる」(NTTの研究員)。SFの世界のようなことが現実になる日も近いのかもしれない。
それでもまだ、メタバースの普及に懐疑的な人やピンと来ていない人も多いだろう。筆者も“モヤモヤ感”を抱えている1人だが、メタバースはいずれ「来る」と思っている。今後は現実世界と仮想世界の境界がどんどん薄れていき、知らないうちに広義のメタバースでいろいろなビジネスが行われるようになるだろう。
なぜなら、さまざまな技術の進化によって、仮想世界に現実(リアル)を簡単に持ち込めるようになっているからだ。その象徴がデジタルツインだ。空間や人をキャプチャーしてデジタル化し、仮想世界でシミュレーションなど多様なことができるようになってきた。仮想世界にリアルが持ち込まれればそこに社会ができ、お金も回る。2000年代後半に仮想世界「セカンドライフ」(米リンデンラボ)が注目された際には、まだそのような技術がなかったため、ニッチな存在を超えられなかった。
例えば、人の動きを含めて空間を丸ごとキャプチャーする「ボリュメトリックキャプチャー」という技術が最近注目を集めている。撮影対象を数十台以上の4Kカメラなどで取り囲んで動画撮影をして3D(3次元)のCG(コンピューターグラフィックス)を作る技術だが、Gbps(ビット/秒)級の大容量データを短時間に処理できるようになったことで、ようやく本格的な実用化が始まった。
まだ黎明(れいめい)期の技術だが、その可能性は大きそうだ。「将来、オンライン会議で話している人の3DCGをその場で生成し、動作を忠実に再現したリアルな映像を作れるようになるだろう」(CGの研究分野で国内外から高い評価を受けている、早稲田大学 理工学術院教授の森島繁生氏)。
もちろん、アバターは常に本人を再現したものである必要はない。それでも著名人を筆頭に、家族や知人など「本人性」が重要になるケースが必ずある。もしかしたら、将来のオンライン会議は、リアルなアバターでの参加をマストにする会社も出てくるかもしれない。そうなれば、今のようにオンライン会議中に画面を消して“内職”をしたり、サボったりするような人は減るだろう。