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 コンクリートに二酸化炭素(CO2)を固定する新しい技術の開発が盛んになってきた。そこで課題になるのが、コンクリートの中性化である。鉄筋コンクリート(RC)造の建物において、中性化は耐久性を脅かす現象として長年、問題視されてきた。しかし脱炭素社会では、コンクリートの中性化を「CO2貯蔵技術」と捉え直す、価値観の転換が起ころうとしている。

 なぜコンクリートの中性化が建物の耐久性に悪影響を及ぼすのか。建築分野以外の読者のために、簡単に説明していく。

世界文化遺産の「軍艦島」(正式名:端島)。1916年に建設された日本最古の鉄筋コンクリート造アパートなどがある。完成から長期間を経ており、コンクリートの中性化や鉄筋の腐食などの劣化が進行している。保存のための調査研究が行われている(写真:日経クロステック)
世界文化遺産の「軍艦島」(正式名:端島)。1916年に建設された日本最古の鉄筋コンクリート造アパートなどがある。完成から長期間を経ており、コンクリートの中性化や鉄筋の腐食などの劣化が進行している。保存のための調査研究が行われている(写真:日経クロステック)
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 鉄筋コンクリート造は、鉄筋とコンクリートのそれぞれの弱点を互いに補完し合うことで利点を引き出した画期的な構造形式である。圧縮には強いが引っ張りには弱いコンクリートと引っ張りに強い鉄筋を組み合わせることで、コンクリートの弱点を補っている。一方、鉄筋が酸素によってさびる弱点を、アルカリ性のコンクリートで包み込むことで防ぐ。このアルカリ性を失う現象が中性化である。

 コンクリートはセメント成分が水と反応してアルカリ性になる。実際の現象はもっと複雑だが、分かりやすい例としては、酸化カルシウム(CaO)が水(H2O)と反応して水酸化カルシウム(Ca(OH)2)になることが挙げられる。水酸化カルシウム水溶液はアルカリ性を示す物質として、中学校の教科書などでおなじみだ。

 このアルカリ性がCO2と反応することで変化した結果が中性化である。水酸化カルシウム(Ca(OH)2)でいうと、CO2と反応して炭酸カルシウム(CaCO3)になり、アルカリ性が弱まる。つまり、コンクリートとCO2の化学反応を促すことは中性化を意味する。アルカリ性が失われると、鉄筋を酸素によるさびから守れなくなるわけだ。