年末年始はこたつで溶けていた。YouTubeを見たり猫と一緒に昼寝したり。やるべきことから目を背けて過ごしていたが、何だか罪悪感のようなものが……。あの記事、書けてない。
「ものすごい危機感がある。だから、全然ウエルカムじゃない。参入者が増えて盛り上がる、というのはきれいごとだ」
発言の主は、アウディジャパンのトップ、マティアス・シェーパース氏である。ここまでストレートに言うのか――。素直に感心してしまった。それでも記事にできなかった。すいません。
勝手ながら文章にしてすっきりしたところで、せっかくの新年である。この発言を含めて、自動車業界を担当する筆者が2022年に出合った印象的な言葉を5つ選ぶことにした。経営者の本音や技術者の生の声から1年間を振り返りつつ、2023年のヒントを探ってみた。
「大歓迎」「競争ではなく共創」は本心なのか
シェーパース氏にインタビューしたのは2022年春。ちょうど、ソニーグループとホンダが提携を発表し、韓国・現代自動車が電気自動車(EV)を日本市場で発売すると宣言した直後だ。日本の自動車メーカーも相次いでEVを投入していた。
日系メーカーのEV関係者に話を聞くと必ず、「EVへの関心が高まるので大歓迎」「まだ競争ではなく共創の段階だ」といった前向きな言葉が返ってきていた。
本心なのか。素直に受け取れないでいた。そんななかでシェーパース氏の「きれいごと」発言と出合ったこともあり、「やっぱりそうだよな」と腑(ふ)に落ちた。
取材後、すぐに記事化すればよかったのだが、熟成させてしまった。その間に、中国の大手自動車メーカーである比亜迪(BYD)が日本市場への参入を表明。さらに、EVに全集中のはずのドイツAudi(アウディ)からはF1参戦の正式発表が。「ライバルがさらに増えたが勝算は?」や「脱エンジンなのにF1参戦?」など疑問が増えてしまったので、このあたりはまたの機会にお伺いしたい。
EV関連では、TATEBAYASHI MOULDING(TMC、群馬県館林市)社長の髙草木健一氏の言葉も印象的だった。
「当時は批判的な声が多く届いたし、社員も不安だった。それでも、いま振り返ればいい判断だったと思う」
TMCは群馬県館林市に本社を置く金型メーカーで、2010年にBYDの傘下に入った。自動車の車体を製造する上で欠かせない金型には、多くのノウハウや長い年月をかけて蓄積してきた知見が詰まっている。このため、買収当時は「日本の技術が中国に流出してしまう」といった懸念が噴出した。
買収から12年以上がたった。TMCの社員数は、2010年時点で85人ほどだったが、2022年夏の段階で約120人まで増えた。BYDが日本の乗用車市場に参入することについて髙草木氏は、「開発に携わったクルマが国内で走り始めるのは率直にうれしい」と語ってくれた。
「BYDの発注に対応しきれない部分は国内の金型メーカーに協力を依頼することもあるが、半数以上は短納期を理由に断られる」。同氏の発言でもう1つ心に残っているのがこれだ。BYDの要求についていけない日本企業が増えつつあるようだ。
“日の丸技術”への過信に危機感を抱いた取材はこのときだけではない。