「鉄の塊」という印象が強い工作機械のイメージが今後はがらりと変わるかもしれない。そんな発表が2020年12月にあった。牧野フライス製作所ら4社が、ねずみ鋳鉄(片状黒鉛鋳鉄/FC材)を代替できるアルミニウム(Al)鋳造合金「ATHIUM」(アシウム)を発表したのだ。密度はねずみ鋳鉄の40%程度だが、同鋳鉄と同程度の剛性を持ち、工作機械の構造部材などに使える。実用化すれば工作機械の可動部や機械そのものを大胆に軽量化でき、生産性の大幅な向上が見込めるとする。
発表会に登壇した牧野フライス取締役社長の井上真一氏は、「“軽くて強い(剛い)”工作機械を変える材料になる」と新材料に強い期待を寄せる。2021年度以降、同社の工作機械でねずみ鋳鉄を使っているコラムや主軸台などにATHIUMを積極的に採用していく考えだ。
ATHIUMのヤング率は、ねずみ鋳鉄と同等の103GN/m2で密度は3.0g/cm3。一般的なAl合金のヤング率は70~80GN/m2程度とねずみ鋳鉄に比べて2~3割低く、剛性が求められる工作機械の構造材に使うのは難しかった。
ATHIUMを開発したのは、牧野フライス製作所と、鋳造事業を手掛けるヒノデホールディングス(福岡市)および同社の中核関連会社である日之出水道機器(同)、Al合金鋳造を得意とする田島軽金属(埼玉県羽生市)の4社。ヒノデホールディングス・日之出水道機器が材料の、田島軽金属が鋳造技術の開発を担い、牧野フライス製作所が工作機械の構造部材としての実用性を検証した。海外工作機械メーカーなどライバルへのアドバンテージとなり、軽量化によって環境問題の貢献にも寄与できる新材料を、という牧野フライス製作所の要請で、2年ほど前に着手したが「開発は予想以上に困難だった」(日之出水道機器代表取締役社長の浅井武氏)と明かす。
組成の詳細についてはノウハウとして明らかにしないが、Al合金の鋳造過程で銅などとの金属化合物の析出によって剛性を高めつつ、組成の微調整によって加工性や鋳造性も確保し「工業的に使えるところまで完成度を高めた」(浅井氏)とする。鋳造には、田島軽金属が得意とする「砂型低圧鋳造法」を採用している。ちなみに、ATHIUMの名称は、「Alliance Tajima HInode Unite Makino」に由来している*。
生産性85%向上と環境負荷低減を両立
牧野フライス製作所はATHIUMの採用で製品の国際競争力を高める考えだ。可動部の構造部材の軽量化により高速駆動を可能にして非切削時間を短縮し、生産効率を高める。駆動源のモーターも小型低出力品に置き換えて省エネルギーにもつなげる。ドイツなどと並んで日本メーカーが強いとされる工作機械だが、中国メーカーがシェアだけでなく品質でも脅威になりつつあるとの危機感が背景にある。