現在、さまざまな自動車メーカーや自動車部品メーカーが開発に取り組んでいるのが、ステアリングホイールに代わる新しい操舵(そうだ)デバイスの模索である。自動運転がレベル4、5へと高度化すると、運行設計領域(ODD)の範囲内であれば基本的に運転者は不要になる。すなわち、ODDを満たしている走行環境では、基本的に操舵デバイスは要らなくなる。
極論すれば、最小リスク制御(ミニマム・リスク・マヌーバー、MRM)によってシステムが車両を安全な場所まで移動させられるようになれば、後はその車両を他の場所に移すのに困らない簡易的な操舵デバイスがあれば事足りる。もっとも、ODDを満たしていない走行環境まで考慮するならそうはいかない。簡易的なものであれ、使い勝手のよい操舵デバイスが不可欠だろう。
そんな変化が視野に入るクルマの操舵デバイスだが、今でこそ当たり前となっているステアリングホイールは、かつては当たり前ではなかったようだ。それを思い知らされたのが、マツダのクルマづくりの歴史を紹介している「マツダミュージアム」を訪れたときのことだ。そのとき、筆者の目に飛び込んできたのが、三輪トラック「GLTB型」(1956年)である(図1)。
なんとこの車両に搭載されていた操舵デバイスは、ステアリングホイールではなく、二輪車のハンドルのような形状をした「バーハンドル」と呼ぶものだった(図2)
改めて考えてみると、現在主流のステアリングホイールはそうした他の操舵デバイスを抑えて現在の地位を獲得した覇者ということになる。確かにステアリングホイールはとてもよくできた操舵デバイスに思える。
例えば、丸いので左右の手を握り替えながら連続して大舵角(だかく)を切れる。これはバーハンドルにはない特徴だ。操舵に対する転舵(てんだ)のギア比を1対1からずらしても操作の違和感は少ない。バーハンドルは、二輪車同様に車輪と直結したイメージが強い。そのため、ステアリングホイールの場合よりも違和感が増すように思われる。ステアリングホイールならホイールを握っている一方の手の握力を調整しながら、他方の手でホイールを回すことで、微小な舵角も操作しやすい。
しかも、ステアリングホイールはバーハンドルと同様、右利きでも左利きでも使いやすい左右対称形状である。腕を休めるアームレストとしても使える。車両の揺れで姿勢が崩れそうになったときも体を支える取っ手になり得る。さらには、方向指示器やワイパー、各種のスイッチ類などいろんな操作系を両手の近くに集中配置する基盤(ハブ)としての役割も果たせる。