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  「視覚とも触覚とも異なる『近接覚』は人間にはない感覚」。この近接覚を検知するセンサー(近接覚センサー)の開発者で、事業化のためベンチャーを設立する大阪大学基礎工学研究科システム創成専攻助教の小山佳祐氏は、近接覚をこう説明する。近接覚センサーは単なる距離センサーとは異なり、対象物体の姿勢も検知できる。数cmにまで近づいた物体の距離や向きを高精度で検知するため、「ロボットのハンドが触れる前から対象物体を検知し、つかみ方を調整する」(同氏)といった使い方が可能だ。

 なぜこのようなセンサーを発想したのか。きっかけは、同氏が高等専門学校の学生だった時期にまでさかのぼる。全国高等専門学校連合会とNHKなどが主催する「高専ロボコン(アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト)」に出場し、2007年と08年の全国大会で準優勝した経験だったという。

 同氏が高専ロボコンで感じていたのは、練習場所と大会会場の微妙な差だった。

大阪大学基礎工学研究科システム創成専攻助教の小山佳祐氏
大阪大学基礎工学研究科システム創成専攻助教の小山佳祐氏
(出所:小山佳祐)
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障害物の位置や光の環境が異なる

近接覚センサーを開発した経緯を教えていただけますか。

小山:最初のきっかけは、高専ロボコンへの挑戦です。高専ロボコンは競技時間が3分間しかないので、技術的に優れたロボットだとしても、速く動かないと課題を完了できません。だから速く動くロボット、正確に動くロボットが集まる大会になっていたのです。私もそういうロボットを造りたかったので、ロボコン部に入ってチームとして優勝を目指してがんばりました。

「高専ロボコン2007 風林火山 ロボット騎馬戦」全国大会に出場
「高専ロボコン2007 風林火山 ロボット騎馬戦」全国大会に出場
ゼッケン1番が小山氏。(出所:小山佳祐)
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 実際に大会用のロボットを造る上で難しかったのが、競技フィールドにある障害物の位置や光の加減などが、学校で練習している環境と地方大会、全国大会とそれぞれ微妙に異なることです。なので速く正確に動かすのも大事なのですが、環境の変化に適応する能力が必要だと思いました。そのため、センサーからのフィードバックや、柔軟さを持たせた機構によって環境変化への対応能力を持たせたロボットに強く興味を持つようになりました。

高専ロボコン2007全国大会で詫間電波高専と対戦
高専ロボコン2007全国大会で詫間電波高専と対戦
相手のロボットから旗を取り除くと勝ち。(出所:小山佳祐)
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 その後、電気通信大学に編入学して、触覚センサーの大家でいらっしゃる下条誠先生(現名誉教授)の研究室に入りました。当時、下条先生と東京大学の石川正俊先生(現東京理科大学学長)のお2人が取り組まれていたのが、高速な視覚センサーと触覚センサーを使って、環境の変化にも対応しながらロボットをものすごい速さで、人間よりも速く動かす研究でした。私もそのテーマで研究を始めたわけです。