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 ロシアによるウクライナ侵攻は、ロシアからの撤退やサプライチェーン見直しを迫られるなど企業活動を揺さぶった。2023年以降に日本企業が直面するリスクとして、焦点が当たっているのが東アジアでの有事だ。

 中国の習近平政権は2022年10月の中国共産党全国代表大会で、台湾を核心的な利益と改めて位置付け、「台湾統一を必ず実現させる」と明言した。平和的統一を目指すとする一方で、武力行使を辞さないという明確な意思表示をしている。

 中国はロシアの比にならないほど、日本や米国・欧州などと経済的結びつきが大きい。実際に台湾を含む東アジアで有事が発生すれば、中国からの事業撤退や邦人の退避、サプライチェーンから中国企業を除外するなど、経済や民間活動は計り知れないほど大きい影響を受ける。

 ロシアによるウクライナ侵攻でも企業がロシア事業からの撤退やサプライチェーンからの除外を決断するなど様々な見直しを迫られた。デジタルや情報システムの観点からも、企業はどのような影響があるかを想定し、和らげる方法を考えるべき時にある。

超限戦では日本企業も攻撃対象になる

 西側諸国が中国と経済的な断交に踏み切れば中国にとっても大きな痛手になる。台湾有事が現実に起こる可能性は低いとの見方が中国政治の専門家では強いようだ。一方で逆の見方もあるという。安全保障の専門家は、「日本が防衛費を増額するなど米国と同盟国が対応能力を高めており、中国の現政権は『ここ1~3年程度が台湾侵攻の成功確率を高める好機だ』と見ているだろう、との指摘が増えている」と話す。

 専門家が指摘するのが、もし台湾有事があれば「日本も攻撃対象になる可能性が高い」(デロイトトーマツグループの土井秀文マネージングディレクター)ということだ。米軍の基地があるほか、日本も同盟国として中国への対抗策を取ることになるからだ。

 実際に2022年12月に閣議決定した防衛分野の3文書でも明記している。その1つである「国家安全保障戦略」では、中国の軍事動向や対外姿勢について「我が国と国際社会の深刻な懸念事項であり(中略)、我が国の総合的な国力と同盟国・同志国などとの連携により対応すべきもの」とした。

政府が閣議決定した防衛3文書
政府が閣議決定した防衛3文書
(出所:防衛省の文書表紙を基に日経クロステックが作成)
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 その際に想定すべきなのは、中国の軍関係者が「超限戦」と呼ぶハイブリッド戦争だ。「サイバー攻撃による重要インフラ破壊や、偽情報の拡散、世論を誘導する情報戦などを同時多発的に組み合わせる超限戦を中国は研究してきた。すでにマルウエアを潜伏させようとする前哨戦は始まっていると見るべきだ」と、EYストラテジー・アンド・コンサルティングの西尾素己Strategic Impact Unitパートナーは指摘する。

 政府は電力や鉄道、通信、金融などの重要インフラを指定し、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)を中心に官民がサイバー攻撃対策で連携している。有事があれば、想定を超える物量で攻撃を受けるほか、メディアやSNS(交流サイト)などへのより幅広い情報工作が想定される。

 ウクライナ侵攻におけるロシアのハイブリッド戦争に対しては「あまり成功しなかった」「十分に対策が取れていた」との評価が見られるが、EYストラテジー・アンド・コンサルティングの西尾パートナーはこうした見方に否定的だ。軍事作戦についてはロシアが撤退を迫られたのに対して、サイバー攻撃や偽情報の拡散そのものは、一定して高い効果を発揮したと見ている。

 日本がハイブリッド戦争の攻撃対象になる想定はできているのか。どれだけの防御ができるかは未知数だ。