顔認証決済の実証実験が相次いでいる。NECやパナソニック、セーフィーなどのベンダーが提供するサービスを活用するだけでなく、ユーザー企業が自らAI(人工知能)モデルを開発して利用しているケースも多い。現在広く普及しているクレジットカードやQRコードなどを用いたキャッシュレス決済の次のステップになるだろう「顔パス決済」の実現もそう遠くはない印象を抱いている。
顔認証を支える技術は日進月歩で進化している。NECは顔と虹彩をまとめて識別し本人認証する「マルチモーダル認証」ができるカメラとAIモデルなどから成るシステムを2022年11月に発売した。他人を誤って受け入れる「他人受け入れ率」は100億分の1以下だという。
だが顔認証決済の実証実験が相次いでも、本番導入までこぎ着けた事例が少ないのが現状だ。導入を阻む要因になっているのはセキュリティーや認証精度など技術的な要素だけではない。決済するエンドユーザーが感じる「心理的なハードル」が導入を阻んでいるという声も上がっている。
実証実験は相次ぐものの
実証実験の主戦場になっているのが小売店だ。大阪市高速電気軌道(大阪メトロ)が運営するポップアップ型販売店舗「Metro Opus」やディスカウント店を展開するトライアルカンパニーなどが、店頭に設置したレジにカメラを取り付けた。Metro OpusはNECの顔認証端末を活用してなんば店と梅田店の2店舗で実証に取り組んでいる。期間はそれぞれ梅田店が2022年4月から2023年3月まで、なんば店が2022年7月から2023年3月まで。2022年12月13日時点で2店舗合わせて、636人が顔画像と決済情報を登録した実績がある。
顔認証決済をMaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)と掛け合わせた実証実験の事例もある。パナソニックは山梨県富士吉田市にある遊園地「富士急ハイランド」を運営する富士急行などと、2021年11月から2022年1月まで、富士急ハイランドと温泉やロープウエーなど周辺の観光地を結ぶ路線バスや電車など複数の観光地や交通機関にまたがって顔認証で決済する「富士五湖顔認証 デジタルパス」の実証に取り組んだ。
デジタルパスは実証において周辺地域の経済活性に成果を上げた。実証前は山梨県における観光客1人当たりの平均訪問観光地点数は1.3カ所で、特定の観光地に観光客が集中していた。顔認証決済の実証と同時にダイナミックプライシングの実証にも取り組んだ結果、平均訪問観光地点数は3.4カ所に増加した。実証に参加したユーザーにとって顔認証決済は「使えば便利」だと捉えられた結果だと言える。