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 日本で2030年度から実施する予定の新しい燃費規制。「Well-to-Wheel(1次エネルギーから走行まで、以下WtW)」で規制値を決めるなど、世界に先行する意欲的な内容だ。「自動車大国」としての自負を感じる一方で、気になるのが海外に比べて罰則が緩いことである。「性善説」に偏り過ぎていないか。

 経済産業省と国土交通省は2019年、2030年度以降に企業平均燃費(CAFE)で25.4km/L(WLTCモード)の達成を求める規制案を発表した注1)。2016年度の実績値(19.2km/L)に対して、3割超の改善を求める。

注1)当初は2030年前の導入を求める意見があったがメーカー側が反発し、欧州と足並みをそろえる形で2030年度からとなった。

 海外の燃費規制は走行中だけ(Tank-to-Wheel、以下TtW)を対象にするため比べにくいが、日本規制は欧州規制のようにとんでもなく厳しいわけではなく、それなりに現実的な水準と言える注2)

 自動車メーカーは表向きに「達成は大変難しい」と渋い顔を見せるが、規制検討会議の座長である京都大学名誉教授の塩路昌宏氏は「できると思っている」と見通す。トヨタ自動車のハイブリッド車(HEV)「カローラスポーツ」(WLTCモードで30.0km/L)のように、既に規制値を大きく上回る車両があるからだ。簡単とは言わないが、HEVをそろえれば達成できて無謀な規制値ではない。

注2)メーカー側は「オフサイクルクレジット」の導入に期待して、規制当局と折り合ったとされる。同クレジットは、モード走行で燃費値に反映されにくいが、実走行で効果がある技術を評価する制度。具体的な議論はこれからだが、メーカーにとって規制値を実質的に緩める方向に寄与する。

トヨタのHEV「カローラスポーツ」は2030年度燃費規制を既にクリア
トヨタのHEV「カローラスポーツ」は2030年度燃費規制を既にクリア
WLTCモード燃費で30km/Lに達する(写真:宮原 一郎)
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日本規制の罰金はないのに等しい

 日本の燃費規制で特徴的なのは、WtWの考えを取り入れて電気自動車(EV)に比較的厳しいことである。

 実は規制値だけで見ると、日本は欧州や中国に比べてかなり緩い。比較のために日本の規制値をCO2排出量に換算すると、日経クロステック調べで約90g/kmになる。ナカニシ自動車産業リサーチによると欧州の2030年規制値は約67g/km、中国は約74g/kmに相当し、日本は2~4割近く緩い規制になる。

 ただし、欧州や中国の規制値はTtWで計算し、EVのCO2排出量をゼロとして特別に優遇する。エンジン車やHEVで規制達成が難しい場合、EVを安売りして排出量を大きく減らす手段を採れるわけだ。むしろ欧州と中国の規制当局は、それを期待している面がある。一方で日本はEVの優遇幅が小さく、その手段は採りにくい。その分、規制値を緩めたように思える。

 英調査会社IHSオートモティブによると、日本の新規制で日産自動車のEV「リーフ」の燃費換算値は43.5km/L。日経クロステックがCO2排出量に換算すると、約53g/kmに相当する。EVの扱いが「ゼロg/km」の欧州・中国との差は歴然である。相対的に、HEVの重要度が高くなる。