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 トヨタ自動車が開発する自動運転車の進展が遅い。ハンドルのない自動運転車「e-Palette」は、いまだ公道走行にこぎ着けられない。国は違うが、19年に610万マイル(約980万km)を自動運転で走らせた米Alphabet(アルファベット)傘下の米Waymo(ウェイモ)との差は開く一方に思える。巻き返せるのか。あの企業が鍵を握る。

e-Paletteを複数台走らせた
e-Paletteを複数台走らせた
(出所:トヨタ)
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 昨今の自動運転技術の開発の主戦場は、シミュレーションである。コンピューター上に高精度な街や道、自動運転車両を仮想的に構築し、走らせる。現実にほとんど起きない複合的な事象まで検討できて、自動運転ソフトの性能を高められる。

 それでも公道走行は欠かせない。「開発者が思いつかない珍しい事象を見つけられることがある」(シミュレーションツールを手掛ける技術者)。コンピューター上で起こる事象は技術者が考えたことの組み合わせにすぎず、漏れがある。加えて、公道走行の実績なしに実用化の最大の壁になりかねない社会受容性を得るのは難しいだろう。

 2020年12月、トヨタはe-Paletteの進捗を報告したが、配車管理など周辺システムの話題が中心で、肝心の車両については私有地で走らせただけ。公道試験の開始時期についてトヨタは「回答は差し控える」と述べるのにとどまる。

 e-Paletteは、21年7月に開催予定の東京オリンピック・パラリンピックで関係者の移動に使い、16台を走らせる予定である。走行範囲については選手村の中くらい。また21年2月に着工予定のスマートシティー実験都市「Woven City」でも活用する。トヨタは「オリンピックで走らせた車両を活用しながら、Woven Cityなどを通じて早期に社会実装に向けて準備を進める」としており、公道走行にはもう少し時間がかかりそうだ。

 その上、現時点のe-Paletteの仕様はもの足りない。最高時速は19km/h、1充電当たりの航続距離は150kmにすぎない。試作車の域を出ておらず、商品性はまだまだである。