「小舟を組み合わせている」。丸亀製麺などの飲食店を展開するトリドールホールディングス(HD)の磯村康典執行役員CIO(最高情報責任者)兼CTO(最高技術責任者)BT本部長は複数のSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)を組み合わせた同社の業務システムの「つくり」についてこう表現する。
複数のSaaSの組み合わせを1つの業務システムとしてみた場合、そのシステムの設計思想はマイクロサービスアーキテクチャーではなく(もちろん個々のSaaSの開発自体はそうかもしれないが)、かといってモノリシックアーキテクチャーでもない。船に例えれば、舵(かじ)やプロペラ、船橋といった部品の組み合わせではなく、一方で1隻の豪華客船を建造するのとも違う。
iPaaSの市場が広がる
ユーザー側から見ると広く「サービス指向」ともとらえられるかもしれないが、サービスの粒度で見ればSaaS自体はそれだけで完結して使える「システム」だ。複数のSaaSを組み合わせて連携させた業務システムは、まき網船団が網船、灯船、運搬船といったそれぞれは独立した船で構成されるかのごとくであり、磯村CIOの「小舟の組み合わせ」との表現は言い得て妙だ。
今、ユーザー企業がこうした「船団」型で業務システムを構築する例がクラウドへの移行やSaaSの普及に伴い増えている。そんな状況をうかがわせる調査がある。2022年12月にデロイト トーマツ ミック経済研究所が発表した「業務iPaaS市場の現状と将来展望 2022年度版~ITシステムのハブ機能となる業務iPaaSの急拡大が始まる~」だ。
この調査によると、国内の業務iPaaS(インテグレーション・プラットフォーム・アズ・ア・サービス)市場の売上高は2021年度で44.9億円(前年度比135.6%)、2022年度は61.1億円(前年度比136.1%)となる見込みであり、さらに今後右肩上がりで売上高が増えていくと予測している。
業務iPaaSとは、同調査の定義を引用すると「エンドユーザ企業ITシステム内の複数ツール(アプリ・データベース・ファイル・ストリーミングデータなど)を1対N~N対Nで連携して業務の効率化・自動化するためのITシステムのハブ機能となるクラウドサービス(原文ママ)」である。システム/サービス間連携のためのサービスであり、複数のSaaSを連携する際などにも利用される。連携させる際の手法としてローコード/ノーコードがある。
iPaaSの市場が伸びているということは、それだけSaaS連携、あるいはSaaSとオンプレミスのシステムなどを連携する需要が増えていることを意味する。調査を担当したデロイト トーマツ ミック経済研究所の佐久間尚基上級研究員はその背景を次のように話す。
「数年来、事業者側ではオンプレミスとクラウドをつなぐものが必要だと考えていた。日本市場では5年ほど前からiPaaSは出始めていたが、『つなぐ』という想定でiPaaSをあらためてとらえる必要がでてきた。大手から中堅中小を含めて『つなぐ』利用が広まるだろうとの予測の下、調査を始めた」
そしてもう1つがSaaSの普及だ。「海外では(1社で)平均40から50、国内では10から20のSaaSを使っているとの調査がある。これまで大手はスクラッチで連携機能を開発してきたが、SaaSの数が増えてくると難しくなる。iPaaSはそうした連携のために使われ始めている」(佐久間上級研究員)。