大気中の二酸化炭素(CO2)を直接回収して固定化する技術「ダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)」は、2050年のカーボンニュートラル(温暖化ガス排出量の実質ゼロ)達成の決め手の1つとして期待されている。実際、政府主導の「ムーンショット型研究開発事業」では目標の1つに「地球環境の再生」を掲げ、DACに関する7つの研究プロジェクトが走っている(図1)。
2023年1月17、18日に新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)主催で同事業の「ムーンショット型研究開発事業 目標4 2022年度成果報告会」が開催された。
大気中の濃度の低いCO2をいかに効率的に回収し、価値のある資源に変換するか――。それぞれのプロジェクトが独創的な発想のもと描く将来像は、どれも野心的だった。ところが今、社会実装を見据えた”ある問題”で議論が分かれている。
問題は立地、平地の少なさがネックに
その問題とは、CO2回収装置の立地に関するもの。つまり、広大な土地に大型装置を大量に設置する”大規模集中”と、ビルや家庭の屋上などに小型装置を設置する”小型分散”とでは、日本においてどちらが普及を進めやすいかだ。
一般に、大気中に400ppm程度しか存在しない低濃度のCO2を回収するには、大規模集中が向くとされる。なぜなら、既存技術では回収したCO2を分離するのに加熱などのエネルギーが必要で、効率的に正味CO2回収量を増やすにはスケールメリットを生かす他ないからだ。
ところが、平地が少ない日本の国土では、大規模なDAC施設を建設する場所が限られる。とはいえ、DAC施設のために山岳地域の木を切り開いてしまっては本末転倒だ。この他、CO2濃度が高い人口集中地域や工業地帯に小型の回収装置を分散設置したほうがよいとの見方もあり、普及に向けて意見が分かれている。
欧米では大型集中が先行
既に実用化が進む欧米諸国では、大規模集中型の方がスケールメリットを生かせるとみて、大型DACプラント建設が始まっている。スイスのClimeworks(クライムワークス)は、72基のコンテナ形CO2回収装置で構成する大型プラント「Mammoth(マンモス)」を着工したと2022年6月に発表した(図2)。年間3万6000tのCO2回収能力を持つ。
同年8月には、カナダのCarbon Engineering(カーボンエンジニアリング)が年間最大100万t規模のDAC施設の建設開始を発表(図3)。米テキサス州南部に建設中の同施設は、CO2を地中に貯留する施設(CCS)を備える。2024年末の稼働開始を計画している。