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 「日本の製造業界の営業には誤解が多いのではないか(売り込み下手ではないか)」。という本題に入る前に、筆者が建築雑誌「日経アーキテクチュア」の記者時代の体験について触れたい。

 同誌では、いわゆる「スター建築家」や「売れっ子空間プロデューサー」を取材する機会に恵まれたが、「口がたつ」人が少なくなかった。自ら設計した商業施設を、オフィスビルを、住宅を熱く語る。語るだけならまだしも、地方の公共建築の設計者を取材したら、その建築とは関係ない議員や、その設計者の顧客と思われる社会福祉法人の理事長に引き合わされたりすることもあった。要は「私は雑誌に取り上げられるような存在なのだ」と売り込んでいたのだと思われる。メディアに取り上げられるような建築家というサンプルの偏りはあったかもしれないが、押しの強さに驚かされた経験は何度もある。

 2017年に現在の「日経ものづくり」に異動。取材に出て驚いたのは、製造業の関係者は総じて謙虚、控えめに感じられたことだ。裏を返せばPRが得意でないように思えた。海外で評価されている切削加工や曲げ加工、あまり前例のない工場の自動化について取材しても、「私からしたらできて当たり前」「他の企業でやっているかもしれない」といった消極的なコメントの比率が高い。特に「町工場」と呼ばれるような中小企業の経営者や現場の技能者に多いように感じる。

 「独自のノウハウをまねされたくない」「顧客との守秘義務がある」といった事情があるのかもしれない。こうした事情も分かるが、それにしてももっと上手に売り込んでいいのではないか。4年程度の取材経験でこちらもまたサンプルに偏りがあるかもしれないが、押しの弱さに驚かされた経験が何度かある。

 ——といった話を、製造業向けのB to Bマーケティング・販促コンサルティングを手掛けるマーケライズ(東京・新宿)代表取締役社長の中野晴元氏に話したところ、「我々がいつも感じていること」といった反応が返ってきた。

 「製造業界では『うちなんかそんな大したことはない』とか『いつか見込み客から引き合いがあるはず』という経営者が多い。自分たちの価値を見直して、客観的に自分たちができることを正確に伝えられる営業ができていない」(中野氏)

 こう語る中野氏に製造業界の営業「あるある」と、その解決策を聞いた。