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 日経クロステックの読者なら、ネットから情報を得ない日はないだろう。では、日々触れるそれらの情報は、どれだけ偏っているのだろうか。偏った情報を「摂取」し続けることで、どのような弊害があるのだろうか。

偏りが高いほうから5%以内に

 「偏りが高くエコーチェンバーの中にいる可能性が高い」――。これは、筆者のツイッターに流れてくる情報を分析した評価結果である。エコーチェンバーとは、自分の価値観や関心と似通っている情報に囲まれ続ける現象を指す。エコーチェンバーの中にいると、次第に考えが偏っていくといわれている。

 自分の偏り度はどの程度か計測する「エコーチェンバー可視化システムβ版」を使って、筆者のツイッターを評価した。このシステムはツイッターのタイムラインやフォロー関係などを分析、ツイッター全体を流れる情報と比較して、どの程度偏っているかを示す度合いを「エコーチェンバー度」として表示する。ブラウザー上で誰でも利用することができる。計算社会科学が専門の東京大学大学院工学系研究科の鳥海不二夫教授が開発した。計算社会科学とはSNS(交流サイト)への投稿など大量のデータを分析し、社会や経済を定量的に理解しようとする学問である。

 筆者のタイムラインのエコーチェンバー度を分析した結果がこちらだ。エコーチェンバー度が1.0以下であればツイッター全体の分布と類似しているといえるが、筆者のエコーチェンバー度は4.46と高い。このシステムでこれまで算出した中で、筆者は偏りが高い上位5%以内にいることが分かる。

「エコーチェンバー可視化システムβ版」で評価した筆者のツイッターにおけるタイムラインの偏り度合い
「エコーチェンバー可視化システムβ版」で評価した筆者のツイッターにおけるタイムラインの偏り度合い
出所:「エコーチェンバー可視化システムβ版」の画面をキャプチャー
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 筆者は毎日ツイッターを使っている。仕事の情報収集のほか友人らとの雑談のためで、フォローしているのは主にニュースやIT関連メディア、取材先、研究者である友人らのアカウントだ。フォローしているアカウントが発信する内容や領域が偏っている自覚は、あった。ただ、システムの評価結果ほど偏っているとは予想外だった。

 このシステムでこれまで評価した人の平均エコーチェンバー度は3.42。これだけ見ると、そもそも個人のタイムラインが偏っているのは当たり前のようだ。鳥海教授は、偏っていることが良いか悪いかではなく、「自分がどの程度偏っているかや、自身がエコーチェンバーの中にいるのだと自覚することが重要だ」と言う。

「情報的健康」の実現を提唱

 鳥海教授らはツイッターなどのSNSから、ネット空間の分析を行ってきた。泡に包まれたように自分が見たい情報だけしか見なくなる「フィルターバブル」やエコーチェンバーといった状況はデマやフェイクニュースを増長し、人々の意見や物の見方を分断させている。

 これらの背景には、「アテンションエコノミー(注目経済圏)」があると鳥海教授は言う。多くのWebサイトやSNSなどは広告モデルで成り立っている。広告モデルでは多くの人が注目しクリックすることで収益を得るので、情報提供者やその情報を届けるプラットフォーム事業者は、いかにクリックさせるかを競っている。

 情報が「正しい」かどうかよりも、情報が「楽しい」かどうかとして消費することを、「ソーシャルポルノ」と鳥海教授は呼ぶ。アテンションエコノミーではクリック数を稼ぐために、企業やメディアが自らソーシャルポルノを提供しているのが現状だ。フィルターバブルやエコーチェンバーは情報提供者が収益を得るには都合がいい。だが上述したような問題が既に深刻になっている。

 では、ネット上の情報空間をどうしたら良くできるのか。

 こうした問題意識から鳥海教授と、憲法学が専門で慶応義塾大学大学院法務研究科の山本龍彦教授は「情報的健康(インフォメーションヘルス)」という考え方を提唱している。2022年1月に「健全な言論プラットフォームに向けて―デジタル・ダイエット宣言ver.1.0」とした提言を共同で公開した。