いかにもラスベガスらしい、ド派手なピンク色の地下空間。そこで記者を乗せた米Tesla(テスラ)のEV(電気自動車)「Model Y」は、ゆっくりと狭いトンネルに入っていった(図1、図2)。
「展示会はどうだい?」。運転手は記者と軽く言葉を交わしながら時速30マイル(48.3km)程度の速度で、車1台しか通れないトンネル内を進んでいく(図3)。まるで遊園地のアトラクションに乗っているかのような不思議な感覚だ。乗車からわずか数分で地上に顔を出し、目的地の「WEST STATION」に到着した。
「単に短いトンネル内を走るタクシーに乗っただけじゃないか?」。確かに、現状はその通りである。遊園地のアトラクションなら運転手がいない自動運転でもっと未来的だが、そういうわけでもない。
しかし、この地下交通システムは、あのElon Musk(イーロン・マスク)氏が2016年12月に設立した、地下トンネル掘削会社の米The Boring Company(ザ・ボーリング・カンパニー)が手掛ける一大プロジェクトの一端なのだ。
「Vegas Loop(ベガス・ループ)」と名付けられたこのプロジェクトは、国内外から年間4000万人以上が訪れるラスベガス市の交通課題を改善するために進められている。その課題とは、低料金で利用できる公共交通機関が、バスおよび一部の区間を結ぶモノレールに限定されていることだ。
「Uber(ウーバー)」などのライドシェアサービスやタクシーも使い勝手は良いが、料金はかなり割高である。しかも、市内の道路は展示会が開催されるときにはそこら中で渋滞する。マスク氏は“魂を破滅させるような交通(soul-destroying traffic)”をトンネル技術で解決するためにザ・ボーリング・カンパニーを設立したという。
バス並みの利用料金目指す
Vegas Loopは市内の地下に3D(3次元)のトンネルを張り巡らせ、そこにEVを走らせて、渋滞なし、かつ低料金の地下交通システムを構築するという計画である。その第1弾として、2021年4月に、テクノロジー見本市の「CES」などが開催される、ラスベガス・コンベンション・センター (LVCC) の各展示ホールを結ぶ、全長1.7マイル(2.74km)の地下トンネル2本が完成した。LVCCエリアのLoopは、1つの地下駅と2つの地上駅で構成され、展示会の参加者は無料で利用できる。
記者が乗車したのは、LVCCのセントラルホール付近の地下に位置する「CENTRAL STATION」から、2022年に新設されたウェストホール付近の地上に位置するWEST STATIONまでだ。歩くのが速い記者でも徒歩で移動するのに15分程度はかかるところを、Loopは2分ほどで運んでくれた。
もちろん、これはほんの始まりにすぎず、将来構想の実現に向けた拡張計画が進められている。2021年10月には、ラスベガスがあるネバダ州クラーク郡の委員会が、市内の主要ホテルやネバダ大学ラスベガスキャンパス、プロアメリカンフットボール(NFL)の試合が開催されるAllegiant Stadiumなどを結ぶ、51駅からなる全長29マイル(46.7km)のVegas Loopの建設を承認した(図4)。既に一部を着工している。
Vegas Loopは現状、1時間あたり4400人の輸送能力を持つが、51駅が完成するとそれが5万7000人に拡張されるという。使用車両は現状ではModel Yが大半だが、将来的には12人乗りの電動トラムの導入も計画しているという(図5)。
同社はこの計画が順調に進めば、将来はバス並みの料金を実現できるとしている。例えばハリー・リード国際空港とLVCCの4.9マイル(7.89km)を5分、運賃は10米ドル(約1300円)と想定している。今回、筆者は空港からLVCCより近いホテル(おそらく半分の距離)までタクシーを利用したが、チップ込みで32米ドル(4160円)もかかった。