全3767文字
PR

 「やるべきことはかなりやりきったと思うし、良いものができたと考えている」。ランドデータバンク(LDB)の元関係者は、LDBでの経験をこう振り返る。

 LDBの設立は2019年7月。建設業界の中小企業を支援する金融プラットフォームの提供を目的として、三井住友銀行、三井住友ファイナンス&リース、三井住友カードの三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)3社に加えて、建設機械大手のコマツ、官民ファンドのINCJの計5社が参画した。

 金融機関と事業会社が手を組み、データ活用をにらんでFinTech事業に参入したLDBの取り組みは注目を集めた。「金融業界がエコシステムづくりを手掛けた例として、最も早いものの一つ」と、NTTデータ経営研究所 金融政策コンサルティングユニットの上野博エグゼクティブスペシャリストは話す。

 LDBは中小の建設業に特化した独自の与信モデルを構築、2020年9月にこの仕組みを活用した「立替・決済サービス」の提供を始めた。建設事業者が資材会社などから工事に使う資機材を購入した際の代金を立て替えるという内容で、2022年1月時点で約600社が登録、立て替え実績は約10億円に上っていた。当時LDBの社長を務めていた徳永順二氏は「2025~26年ごろの黒字化を目指す」と語っていた。

ランドデータバンクが2020年8月に開催した「立替・決済サービス」説明会の様子
ランドデータバンクが2020年8月に開催した「立替・決済サービス」説明会の様子
(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 ところが2022年10月、オンライン融資を手掛けるFinTech企業のクレジットエンジンがLDBの発行済み全株式を取得したと発表。同年12月15日にLDBを吸収合併し、LDBは解散となる旨を公表した。LDBの取り組みは3年で幕引きを迎えたことになる。

 実際のところ、クレジットエンジンへの株式譲渡は2022年3月までに決定しており、同年4月以降、LDBの活動は事業のクロージングや引き継ぎに向けた作業が中心になっていたもようだ。立替・決済サービスの提供は既に終了している。

コロナ禍もあって需要が伸びず

 LDBの取り組みはなぜ短命に終わったのか。理由の一つとして、立替・決済サービスのビジネスが想定ほど伸びなかったことが考えられる。サービスの概要は以下のようなものだった。

立替・決済サービスの概要
立替・決済サービスの概要
(出所:ランドデータバンク)
[画像のクリックで拡大表示]

 建設事業者が資材会社や協力会社から工事に使う資機材を購入した際に、LDBが代金を立て替えて資材・協力会社に支払う。工事完了後に建設事業者が工事に関する入金を受けた時点で、LDBが立て替え分を事業者の口座から引き落とす。建設事業者は資金繰りを心配せずに済み、資材・協力会社は代金の早期回収が可能になる。LDBは建設事業者と資材・協力会社から一定の手数料を得る。