「IoT」という言葉はもはや珍しくない。あらゆるモノをインターネットに接続し、情報交換する仕組みのことだ。記事中だと初出は「IoT(Internet of Things)」と省略前の言葉を添える決まりだが、書かずとも言葉の意味を理解している読者が大半ではないかと思う。
しかし、「どうすればIoTを実現できるのか」と問われると答えに困る人も多いのではないか。少なくとも筆者は「モノにセンサーを取り付けて、データを収集する」以上のイメージを持っておらず、そんな状態で製造業の担当記者としてIoTをテーマに取材していることに申し訳なさや居心地の悪さを感じていた。
するとある日、とある企業の広報担当者から「ファクトリーサイエンティスト協会」を紹介された。同協会が目指すのは、工場の課題をデータに基づいて解決する人材「ファクトリーサイエンティスト」の育成だ。いくらセンサーなどが安くなっても、使える人材が増えなければIoT化は進まない。だから、同協会はIoTデバイスを使ったセンシングやデータ活用の方法を教える講座を開いているのだ。
魅力的な講座の存在を知り、思わず「私でも参加できますか」と聞いた。それまで記者が参加した例はないようだったが、関係者のご協力もあり「第11回ファクトリーサイエンティスト講座」に参加できることになった。無事に講座を修了すると「ファクトリーサイエンティスト」として認定される。
届いた教材でIoTデバイスの製作に挑戦
筆者の参加した講座は、毎週水曜日午後にオンライン会議システムのzoom上で開催され、全5回だった。30人ほどが参加しており、参加者の所属は大手工作機械メーカー、食品メーカー、寝具メーカー、地元企業を支援する機関など実に多様だ。工場での生産業務に直接携わる人もいれば、システム部門に所属する人、事務系の仕事を担当する人もいた。
講座の目玉は、専用教材を使ったIoTデバイスの製作だ。まずは動画教材通りにデバイスを造る。そして、教材で学んだ基礎を生かして、身の回りの課題を解決するオリジナルのIoTデバイスも製作するという2本立てだ。
初回の講座前に手元に専用教材が届いた。中身はマイコンボードの「Wio Node」、電流センサー、温湿度センサー、センサーを動かすのに必要なケーブルなど。人生で初めてマイコンボードを手にして少し気分が高揚した。漠然と使ってみたいと思っていたものの、目的が定まらず、手を出せずにいた。その点教材として支給してもらい、使い方のガイドがあるのはありがたい。データの管理や分析にはMicrosoftのサービスを使う前提で教材が設計されており、「Microsoft Azure」「PowerBI」「Power Automate」「PowerApps」を利用できるアカウントも用意してもらえる。
第1週目の講座では早速、温湿度センサーで周囲の温度を可視化する。動画を見ながら、マイコンボードとセンサーなどを接続し、パソコンから温湿度を取得するプログラムをマイコンに書き込んでいく。途中、トラブルが発生してもTA(ティーチングアシスタント)が手助けをしてくれる。TAの多くは過去のファクトリーサイエンティスト講座の修了者だ。
1時間ほどで、室温をセンシングし、グラフ化するようなIoTツールが完成した。作業自体は全く難しくない。それでもIoTデバイスがどのような構成になっているのか、直感的に理解できるようになり、充実感が得られた。2週目~4週目の講座では、データをビジュアル化するツールであるPower BIとの連携方法やスマホアプリの作成方法などさらに実用的な技術を、手を動かしながら学べる。