政府は2023年1月27日、新型コロナウイルスの感染症法上の分類について現在の「2類相当」から同年5月8日に季節性インフルエンザと同じ「5類」に移行することを決めた。2023年2月10日にはマスク着用について同年3月13日から屋内外を問わず個人の判断に委ねることを基本とする方針も決めた。ただし、医療機関受診時や混雑した電車に乗る際などはマスク着用を推奨する。新型コロナのパンデミック(世界的大流行)の中、日本国内で3年にわたって続いた「有事」対応が「平時」に向けて大きく近づいた。
とはいえ、これで新型コロナの流行が収束するわけではない。専門家が2023年1月25日に厚生労働省のアドバイザリーボードに提出した「これからの身近な感染対策を考えるにあたって(第一報)」という資料は「新型コロナウイルスのオミクロン株は、伝播力が高まっており、さらなる亜系統も世界各地で確認されており、国内においても今後流行が繰り返す可能性がある」との見解を示している。医療機関や高齢者施設などでクラスターが多発する可能性にも言及しており、とりわけ高齢者の割合が他国と比べて高い日本では、感染を大きく広げないための感染対策が必要だと指摘している。
感染対策の目的は、「自分を感染から守ること」、そして「周りにいる人ひいては社会を感染から守ること」である。こうした感染対策のために、ICTの活用が欠かせない。
接触確認アプリ、「感染対策だけを考えるならGPS型が望ましい」
実は専門家集団は新型コロナ・パンデミックの初期からICTを活用した感染対策について提言していた。
2020年4月1日、政府の「専門家会議」に提出された「状況分析・提言」では、携帯電話の位置情報を中心とするパーソナルデータについて「プライバシーの保護や個人情報保護法制などの観点を踏まえつつ、感染拡大が予測される地域でのクラスター(患者集団)発生を早期に探知する用途等に限定したパーソナルデータの活用も一つの選択肢となりうる」と記し、「結論ありきではない形で、一般市民や専門家などを巻き込んだ議論を早急に開始すべきである」とした。
全国が第1回緊急事態宣言の下にあった2020年4月22日の専門家会議では、移動の自由や営業の自由の制限といった社会経済活動の犠牲を最小化しながら感染拡大を収束に向かわせるため、また再流行に備えるために、公衆衛生上の利益とプライバシーへの影響をともに考慮しつつ、様々なICT活用を考えることは「喫緊の課題である」と提言した。具体的には、調査・個別通知、統計情報2次利用、集計・公開の合理化、近距離無線通信のBluetooth(ブルートゥース)や全地球測位システム(GPS)の位置情報などを用いた接触追跡、健康管理・報告のアプリなどの手法を挙げた。
接触確認アプリについては、「感染対策だけを考えるなら移動履歴を取るGPS型が望ましい」という専門家の声もあったが、プライバシー配慮に関するコンセンサスを得られず、接触確認アプリ「COCOA」は、ブルートゥースを用い、個人情報や位置情報を取得しないものとなった。COCOAは2020年6月に運用が開始されたが、それ以降、何度も不具合が生じた。新型コロナ患者の全数届け出見直しに伴い機能停止が決まり、2022年11月17日、デジタル庁と厚労省は機能停止に伴う最終アップデート版の配布を開始した。
感染症対策に最も重要な疫学情報へのアクセスに大きな課題
ICT活用のなかでも専門家助言組織が最も課題があるとしたことの1つが、新型コロナの発生頻度や要因を明らかにするための疫学情報に関するデータへのアクセスだ。
2020年7月に専門家会議は廃止され、「新型コロナウイルス感染症対策分科会(分科会)」が発足した。廃止直前の2020年6月、専門家会議の構成員一同として「次なる波に備えた専門家助言組織のあり方について」という文書を発表し、記者会見を開いた。記者会見でのスライドにはこう書いてある。
「感染症対策において最も重要な疫学情報へのアクセスと、感染状況に関する科学的な評価について大きな課題があった」
具体的には次のような課題を挙げている。