静かな走行音、そして加速力。これがモーター駆動で走るEV(電気自動車)の魅力だと記者は思う。ただ、裏を返せば弱みにもなり得る。機構部品の組み合わせ要素が強いEVは、ガソリン車に比べて“乗り味”が似やすく、没個性化の恐れがある。三菱自動車「i-MiEV」、日産自動車「リーフ」の登場から10年以上の月日がたち、クルマもバイクもEVの選択肢はずいぶん増えた。いかにして他社と差異化するか。解の1つとして、走行音をあえて追加し、走りの個性を打ち出す動きが目立ってきた。
「航空機のジェットエンジンのようだ」
あるバイクの走行音を初めて聞いたとき、記者は率直にこう思った。音を文字に置き換えるのは難しいが、あえて表現するなら「ギュウォ―――ン」だろうか。表現力の未熟さはともかく、今までのバイクと一線を画すような音であることに間違いはない。
新進気鋭のベンチャー企業が手掛けた新たなモビリティーに思えるかもしれないが、実は伝統ある米Harley-Davidson(ハーレーダビッドソン)が開発した大型EVバイクの走行音だ。
同車両の名称は「LiveWire(ライブワイヤー)」。駆動用モーターを車両底部に備え、ベルト駆動で後輪を動かして走る。伝達機構のスプロケット部で特有の機械音「メカニカルサウンド」(同社)を発生させ、特に加速時に強調して音を出す(下記、画像クリックで音を再生可能)。
ハーレーといえば熱狂的なファンの多さで知られるメーカーである。記者は日本メーカー製の中型アメリカンバイクを所有していたことはあるが、ハーレーは未経験。そこで、LiveWireの走行音についてハーレー愛用者3人に話を聞いた。
「“有り”だと思う。駆動音はライダーをワクワクさせる疾走感を持っている。ガソリン車の従来型ハーレーとは全く異なる新しい魅力を感じる」(50代男性、私立大学教授)
「“有り”と考える。ハーレーのEV参入には驚いたが、既存ユーザーでも満足できるような音へのこだわりを評価したい」(30代男性、自動車メーカー課長補佐)
「“無し”だと思っている。エンジンによる音と振動がハーレー最大の魅力。それが失われるのは残念なこと。ただ、環境対応に挑戦する姿勢は良いと思う」(50代男性、不動産会社社長)
賛否両論あるものの、EVバイク開発への挑戦や、走行音へのこだわりに対しては好意的な意見が多い。既存ユーザーの声を生かし、メーカー、車両としての個性を継続して表現できるかが、ハーレーの電動化戦略での鍵となりそうだ。
ポルシェやマツダも「音」で個性を
走行音で個性を打ち出す取り組みはクルマでも進む。独高級車メーカーPorsche(ポルシェ)も、20年に発売した初のEV「Taycan(タイカン)」で駆動用モーターに音を追加した。SF映画に登場する宇宙船のような走行音で、文字として表すなら「ヴォシュイ―――ン」といったところだ。