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 米Meta Platforms(メタ・プラットフォームズ、旧Facebook)の社名変更から約4カ月、「メタバース」という言葉を目にしない日はないぐらい注目が集まっている。以前からVR(Virtual Reality)やAR(Augmented Reality)分野を追い続けてきた記者にとっても、まさかここまでとはと感じるほどだ。

 取材などでメタバースとは何か、という問いかけをすると、「新たな社会システム・経済圏である」という回答をよく聞く。確かに、これまで物理的な実世界で作られていた社会が、将来的にデジタルなメタバース空間にも構築されるようになるのは間違いないだろう。

 物理法則などに縛られる実世界では実現できなかった取り組みを、メタバース空間でならかなえられる場合もある。社会制度や流通経済の仕組みが整えば、人間が暮らしていく上で新たな選択肢の1つとして利用されるようになるかもしれない。

 ただし、人間が人間である以上、ユーザーの肉体の制約は付きまとう。アバターの姿で配信するバーチャルな配信者であるVTuber(ブイチューバー)も新型コロナウイルスには感染するし、何千時間もメタバース空間で過ごしているユーザーでも、実世界で栄養補給などをしなければならない。これを解消しようとするなら、SF映画「楽園追放」のように、人間が電脳化して、巨大なサーバーのメモリー上で生きる存在になるしかない。

 ではメタバースはどこに向かうのか。もちろん、新たな経済圏が生まれることで、メタバース空間でほぼ1日過ごすという未来はあり得るかもしれない。しかし、メタバースが与えるメリットは「セカンドライフ」的な世界が作られるよりも、“究極のパーソナル”を実現できることにあると記者は考えている。

Meta Platformsが描くメタバースのイメージ
Meta Platformsが描くメタバースのイメージ
あるメタバース空間に参加した少人数の友人らの間でコミュニケーションする。(写真:Meta Platformsが開催した「Connect 2021」基調講演からキャプチャー)
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実は“クローズド”なメタバース

 そもそもメタバース空間の特徴として、実世界よりも閉鎖的な空間である場合が多い。メタバースでは、個々のユーザーは、隔絶した島ともいうべき、点在した世界で活動する。

 実世界は、基本的には誰が見てもたった1つの共通の世界が広がっている。いわゆるオープンにつながっている世界で、同時刻に同じ場所にいれば同じものが見える。「誰かと遠く離れても、どこかで同じ月を見上げている」というようなセリフは、小説などでよく見る表現である。

 しかしメタバース空間では違う。オンラインゲームの攻略ダンジョンのように、複数の仮想的な世界(インスタンス)が同時に生成されるのである。つまり、1つの世界に全てのユーザーがいるのではなく、並行して存在する世界にユーザーが分散して存在するのである。

 例えば、VRコミュニケーションプラットフォームの「VRChat」には、同じ「ワールド」という空間に、全ての人が参加できる「パブリック」なインスタンスと、フレンド登録したユーザーや招待者しか入れないインスタンスなどが複数存在する。同じプラットフォームで同じデザインの空間に居たとしても、インスタンスごとにユーザーが交流している相手は異なる。より小規模でクローズドなコミュニティーが、無数に生まれるのがメタバースの特徴である。

 加えて、メタバースではデジタル上であるという強みを生かして、表示する内容を自在に変更できる。「別のユーザーと同じ物を見ているけど実際には違う物を見ている」状態になるのだ。

 例えば広告やマーケティング用途なら、視界に映り込む広告をユーザーごとに変えるターゲティングは当たり前になるだろう。EC(電子商取引)用途なら、もし3Dで商品を陳列したり試着したりできるようなメタバース空間の店舗であれば、表示する商品や価格までもユーザーに合わせて変更できるようになる。

 実世界ではARによって、パーソナライズした広告配信や、物体の外観をユーザーの好みに合わせて変える、逆に不要な情報を見えないようにするといった取り組みも進められている。もしメタバース空間で活動するようになれば、こうした機能をそのまま持ち込んで実現できるだろう。