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 「もうPoC(概念実証)のためのPoCはやらない」。ここ数年、点検や測量、物流などの産業分野で多くのPoCが行われてきたマルチコプター型のドローンだが、最近になって関係者からこうした声をよく聞くようになった。PoCはもう卒業し、社会実装を実現するフェーズに本格的に移行するという意味である。

 その象徴的な動きの1つが、ドローン関連の企業など6社が共同で2021年2月22日に発足した「Take Off Anywhere(ToA)プロジェクト」である。ドローンの確実な社会実装を推進するための取り組みで、企業間のパートナーシップ構築を支援したり、周辺技術を共同で開発したりするという。「23年までにドローンを『誰もがどこでも必要な時に』活用できる社会」を実現するという、高い目標を掲げる。

 設立メンバーの6社には、ドローン機体や機体を制御するフライトコントローラー(FC)などの開発を手掛ける自律制御システム研究所(ACSL)、VAIOの子会社で機体の開発や製造などを手掛けるVFR、全自動のドローン基地のソフトウエアなどを開発するセンシンロボティクス、新産業の創造を支援する事業を展開するSUNDREDなどが名を連ねる。

2021年2月22日に発足した「Take Off Anywhere(ToA)プロジェクト」。3つのフェーズに分けて、ドローンの確実な社会実装を目指す。上記の4社以外に、PHB Designと理経が設立メンバーである
2021年2月22日に発足した「Take Off Anywhere(ToA)プロジェクト」。3つのフェーズに分けて、ドローンの確実な社会実装を目指す。上記の4社以外に、PHB Designと理経が設立メンバーである
(図:Take Off Anywhereプロジェクト)
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レベル4と国産ドローン

 ToA発足には主に2つの背景がある。1つは、レベル4と呼ばれる「有人地帯での目視外飛行(第三者上空)」、つまり都市部上空も含む自律飛行の解禁を政府が22年度にも目指しており、それが実現すれば市場が一気に拡大する可能性があることだ。インプレス総合研究所の調べによれば、ドローンを活用したインフラ点検分野の国内市場規模は19年度に115億円だったのが25年度には1625億円、物流分野は19年度にほぼゼロだったのが25年に797億円にまで拡大するとしている。

 もう1つは、「国産ドローン」に強い追い風が吹いていることである。ドローン業界には、空撮・ホビー用を中心に機体の世界市場で約7割のシェアを占める“巨人”が存在する。中国DJIだ。同社の開発力や資金力は、現在のドローン業界では圧倒的である。DJIにとっても今後急速に立ち上がる点検や物流分野はチャレンジになるが、その力は脅威であることに疑いはない。しかし、ここにきて米中摩擦をきっかけに高まった中国製ドローンに対するサイバーセキュリティーの懸念という、製品の競争力とは無関係の要因が調達に大きな影響を及ぼすようになってきた。

 実際、米国や日本などの政府機関、さらに大企業などでDJIをはじめとする中国製ドローンを排除する動きが加速している。例えば米国では、内務省が保有していた中国製ドローンの使用や新規購入を停止しているが、さらに20年12月には商務省がDJIを輸出禁止措置の対象に追加した。政府機関から排除するだけでなく、中国華為技術(ファーウェイ)と同様に競争力の弱体化も画策する。

 一方、日本政府は20年9月に、小型無人機に関する関係府省庁連絡会議(第10回)で「政府機関等における無人航空機の調達等に関する方針について」を公表。21年度以降に政府機関などで購入するドローン、さらに現在使用中の機体でセキュリティーに対する懸念があるものを、セキュリティーを担保した機体に置き換える方針を明確に打ち出した。各省庁は合計で1000機以上を保有し、その多くがDJI製とされているが、それを国産ドローンに置き換える。

 最近では、石油プラントや工場など民間企業の施設の点検でも、国産ドローンを要望する声が強くなっているという。機体の乗っ取りや通信の傍受、空撮した映像の盗難などへの対策を施し、それらを国内企業が担保する「国産ドローン」には、大チャンスが到来しているのだ。