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 トヨタ自動車の工場が止まった。国内全15工場・28ラインのうち、9工場・14ラインが最長で4日間(2021年2月17~20日)、その後は8工場・12ラインが最長で2日間(同月22~23日)稼働を停止する計画だ(2021年2月19日執筆時点)。原因は、同年2月13日の深夜に発生した福島沖地震である。最大震度6強の強い地震が部品メーカーを襲い、調達できない部品が生じたとみられている。

 新型コロナウイルス禍にありながら業績を急回復させているトヨタ自動車にとっては水を差された格好だ。だが、仮に1日当たり5000台分のクルマの生産が止まったとしても、影響は3万台程度。被災から立ち直れば、増産によって比較的簡単にカバーできる量だろう。

エンジン工場の例
エンジン工場の例
トヨタ自動車東日本(宮城県黒川郡大衡村)の宮城大和(たいわ)第3工場。当然のことながら、トヨタ生産方式で運用されている。(出所:日経クロステック)
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 こうした災害などのトラブルでトヨタ自動車がクルマの生産を止めると、必ずといってよいほど出てくるのが「トヨタ生産方式の弱点が露呈」という声だ。多くは、トヨタ生産方式の柱の1つとして知られる「ジャスト・イン・タイム」へのネガティブな評価だ。「必要なものを、必要な時に、必要な量だけ調達するというジャスト・イン・タイムなどにこだわっているから、部品の欠品という事態を招くのだ」というのが、典型的な論調である。最近聞いたのは、新型コロナの感染拡大の影響で世界中の工場が生産調整に陥った、いわゆる「第1次工場稼働危機」の際だった。

 だが、誰から何を言われようと、トヨタ自動車がジャスト・イン・タイムをやめた事実は過去にないし、これからもないだろう。「その理由は、深掘りして本質をつかめば見えてくる」(トヨタ自動車関係者)。トヨタ自動車がジャスト・イン・タイムにこだわるのには、2つの理由がある。

「在庫は悪」ではない

 理由の1つは、部品をムダ、ムラ、ムリなく調達することで生産効率を高めたいからだ。こちらの理由は、製造業では広く知られている。ただし、最近のトヨタ自動車はこの考え方をベースに、運用に柔軟性を持たせて部品調達を進化させていると感じる。例えば、「RESCUE(レスキュー)システム」の導入だ。

レスキューシステム
レスキューシステム
サプライチェーン情報を「見える化」するシステム。ジャスト・イン・タイムの概念を基に、こうした新しいツールを導入して進化させるのがトヨタ自動車の特徴。(出所:トヨタ自動車)
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 このシステムを一言でいえば、サプライチェーン情報の「見える化」システムである。取引する部品メーカーと連携し、部品メーカーから情報を集めてデータベースを構築。この情報を基に部品調達計画を立てることで、災害時においても「安定調達」を維持できる。トヨタ自動車は「(レスキューシステムの)データベースに基づいてサプライチェーン上の課題を洗い出し、減災や生産拠点の分散などの対策の実行にサプライヤーと連携して取り組んでいる」と説明する。

 レスキューシステムは第1次工場稼働危機の際にも活躍したが、より効力を発揮しているのは、「第2次工場稼働危機」の最中(さなか)にある今かもしれない。すなわち、「半導体不足」による工場の稼働危機だ。

 世界的な半導体不足に、トヨタ自動車はこのレスキューシステムで立ち向かっている。具体的には、まず3年先までの生産計画を部品メーカーに伝え、部品を長期的に安定して調達できるようにした。加えて、部品メーカーへの連絡回数を増やし、情報の精度を高めている。

 だが、何よりも興味深いのは、この半導体不足によって恐らく世間の多くが知ることになった「トヨタ自動車が部品在庫を持っている」という事実だろう。「どういうことだ? あれほど在庫は持たないと言っていたではないか」という疑問や反発の声が聞こえてきそうだ。

 確かに、ジャスト・イン・タイムでは「ムダな在庫」の徹底的な排除を狙う。だが、その一方でトヨタ自動車は「適切在庫」という概念も持ち合わせている。どうしても必要な部品在庫は確保している。事業継続計画(BCP)を踏まえたリスクマネジメントの一環なのだ。

 適切在庫に関する計画の精度には、東日本大震災をはじめとした過去の自然災害の経験や情報が生かされている。その意味では、辛い経験を未来の希望につなげるシステムともいえる。具体的には、各部品の調達条件を踏まえて1~4カ月分の在庫を持っている。トヨタ自動車は2020年度第3四半期の決算会見でこのことを明かした。