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 「栄養学という学問を変革する段階に来ている」――。

 医薬基盤・健康・栄養研究所理事で、国立健康・栄養研究所所長の阿部圭一氏は日本の健康寿命を延ばす上で栄養学が再び重要な学問になるとの期待を込めてそう述べた。

 2020年2月21日、国際生命科学研究機構は「先端技術シンポジウム 健康寿命の延伸を目指したAI栄養学とAIディアトロフィの今後の展望について」を開催した。医薬基盤・健康・栄養研究所や東北大学などが今まで日本が培ってきた栄養学と、発展が目覚ましいIT技術でどう世界をリードしていくべきかを語った。

* ディアトロフィ
ギリシャ語で栄養を意味する言葉。
「先端技術シンポジウム 健康寿命の延伸を目指したAI栄養学とAIディアトロフィの今後の展望について」
「先端技術シンポジウム 健康寿命の延伸を目指したAI栄養学とAIディアトロフィの今後の展望について」
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 同シンポジウムで期待が寄せられた技術が人工知能(AI)と量子コンピューターである。なぜ食事や食品などを研究する栄養学でそれらの技術の必要性が迫られているのか。端的に言うと、栄養学は単一の成分(栄養素)が体にどう影響するかを解き明かしてきたものの、現時点で複数の栄養素が組み合わさった状態(食事)で体にどんな影響を与えているのかをあまり調べられていない。

 もし食品の複雑な栄養素が体内でどのように相互干渉しているのかを解明できると、個人に合わせた健康的な食事法を提案できる可能性がある。つまり、病気を医薬品で治療するのではなく、食事でそもそも病気になりにくい体をつくり上げられるかもしれないというわけだ。

 食品と異なるものの、単一分子の医薬品研究では製薬会社が多額の費用と労力を投じている。人間が生まれてから寿命が尽きるまで口にする食品の研究となると、さらに途方もないコストと時間が発生してしまう。

 現状でもスーパーコンピューターは一時的に利用するのに多大なコストが発生するとともに、多数の栄養素の組み合わせを解析するのに相当な時間がかかる。そこで栄養学の研究者らはAIや量子コンピューターなどの新たな技術を適用することで、多分子(食品)の機能評価を低コスト・短時間で解析したいという思いがある。