新型ロケット「H3」初号機の打ち上げが中止となった2023年2月17日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開いた記者会見で、一悶着(ひともんちゃく)あった。打ち上がる直前に異常を検知したロケットが安全に停止したにもかかわらず、一部の記者から「失敗」であると強く断定する発言がなされからだ。これが世間で物議を醸した。
オンラインで記者会見に参加した筆者は、当初、その記者の発言にかなりの違和感を持った。宇宙開発における「失敗」といえば、打ち上げ後にあからさまに空中で爆発して、積載する人工衛星を失うような事態を意味しそうなものであるからだ。
今回の打ち上げ中止では、異常を検知した後、いわゆる「フェイルセーフ」の仕組みが働いた。ロケットは発射台にとどまり、搭載していた人工衛星「だいち3号」も無事だった。現場にいた技術者の目線から言えば、決して「失敗」ではないだろうし、打ち上げを「中止」と表現するのは自然なことだ。
ところが、今になって考え直してみると、JAXAはあえて「失敗」という言葉を使ってもよかったのではないかと筆者は感じている。もちろん、打ち上げシーケンスが安全に停止したという事実を曲げろというわけではない。新しい技術開発が初めから成功するとは限らないし、改善を繰り返しながら進歩するものであるから、長い目で応援するのは当然だ。
一方、宇宙開発に関心の無い一般の人々の目に、あの打ち上げはどう映っただろうか。主エンジンが白煙を吹きながらも離陸しないロケットを目の当たりにした後に、打ち上げが「中止」になったと聞けば、「失敗を認めずに言い訳している」と解釈されかねない。よくも悪くも、「中止」は専門家の論理ではないか。