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 この記事が公開されるころに記者はスペイン・バルセロナに到着しているだろう。2022年2月28日から始まるモバイル業界最大のイベントである「MWC Barcelona 2022」(以下、MWC 2022)を現地取材するためだ。記者にとって3年ぶり12回目のMWC取材だ。

MWC Barcelona 2022の会場である「Fira Gran Via」
MWC Barcelona 2022の会場である「Fira Gran Via」
写真は2019年のイベント時(撮影:日経クロステック)
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 MWCは、モバイル業界のこの先を探るには欠かせない展示会だ。他の展示会とは異なり、通信機器ベンダーが通信事業者と将来の技術について商談する場としての役割が色濃い。大手通信機器ベンダーのブースは、招待客以外は入れないホスピタリティーゾーンが、展示ブースの半分以上を占めるほどだ。MWCは、業界全体のコンセンサスをつくる場でもあり、将来の業界トレンドをつかむには絶好の機会となっている。

 そんなMWCも、この2年間、世界に吹き荒れた新型コロナウイルスの感染拡大に伴って中止や規模縮小を余儀なくされた。20年2月に開催予定だったMWC Barcelona 2020は早々と中止に追い込まれ、21年6月にずらして開催した前回のMWC Barcelona 2021も、スウェーデンのEricsson(エリクソン)やフィンランドのNokia(ノキア)といったMWCの主役級が出展を取りやめ、完全な復活にはほど遠かった。

 MWC 2022では、前述のエリクソンやノキアも久々に出展し、MWC完全復活を期待させる。もっとも世界的にまだオミクロン株が猛威を奮っており、MWCの会場に入るには、ワクチン接種証明書の提出や、欧州規格のFFP2マスクの着用などが求められる。それでも世界の通信業界のトレンドを探るためには今回のMWC 2022は欠かせないと判断し、記者は現地まで足を運ぶことに決めた。

MWC 2022のメイントピックは?

 今年のMWCの主役は何になるのだろうか。会期直前の国内外の主要プレーヤーの発表や、MWC 2022のカンファレンスの内容を見る限り、オープン仕様に基づいてさまざまなベンダーの基地局を自由に組み合わせられる「Open RAN」や仮想化基地局である「vRAN」、そして「通信とパブリッククラウドの接近」という3つのトピックが浮上しそうだ。

 Open RANは、ここ数年の通信業界の話題の中心になっている。MWC 2022のカンファレンスにおいても、Open RANをテーマにしたセッションが多数並んでいる。

 記者は以前、「中止になった20年2月のMWCが開催されていたら、Open RANが主役になっただろう」という趣旨の記事を執筆したことがある。その後、業界コンセンサスを熟成する場としてのMWCはなかなか開催できなかった。もしこの間にMWCが開催されていたら、Open RANへの動きはさらに盛り上がったかもしれない。今回のMWC 2022は、いよいよOpen RANの飛躍をリアルの場で実感できる機会になりそうだ。

 Open RANへの対応は、日本市場が先行している。そのため、NECや富士通、そして楽天モバイルの子会社であるRakuten Symphony(楽天シンフォニー)も、世界で存在感を示している。

 もちろんNECはMWC 2022に出展する。同社のOpen RAN対応基地局は、英Vodafone Group(ボーダフォン)やドイツDeutsche Telekom(ドイツテレコム)という欧州の大手通信事業者が21年6月に相次いで採用を決めた。

 その後もNECは海外案件を着実に積み上げている様子だ。同社はMWC 2022の出展内容を紹介する事前説明会で、22年2月時点で同社の基地局の国内外での顧客獲得案件が、商用契約で5件、トライアルで22件にそれぞれ増えたことを明らかにした。

NECはOpen RANを契機に着実に海外案件を積み上げている
NECはOpen RANを契機に着実に海外案件を積み上げている
22年2月時点での国内外の採用件数(出所:NEC)
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 富士通も今回のMWC 2022において、実に4年ぶりに展示ブースを構える。同社はMWC 2022に合わせて、Open RANに対応し電力消費量を大幅に削減したvRAN製品を発表した。仮想化基地局であるvRANは、コスト削減や柔軟なネットワーク運用を可能にする。Open RANと組み合わせて導入を検討するケースが多い技術だ。

 富士通が新たに開発したvRAN製品は、これまでvRANの課題となっていた消費電力の増大を抑え、専用ハードウエアの基地局と比べても電力消費量を半減できるようにしたという。現地でも注目を集めそうだ。

 富士通の無線機(RU)は米国の新規参入事業者であるDish Network(以下、Dish)が採用を決めた。日本企業が世界でどれだけ存在感を示せるのか。今回のMWC 2022で注目したい点だ。