2023年2~3月に公開した特集「DX成功に効く75の心得」を担当した。DX(デジタルトランスフォーメーション)を進める企業では、推進人材を採用したり育成したりしている。こうした動きが加速すると今後、IT・DX関連のプロジェクトに初めて携わるビジネスパーソンが増えてくることが予想できる。
そうしたビジネスパーソンがDXをうまく進めてもらえるように、DXで成果を出している先進企業7社に取材し、コツやノウハウ、注意点を「心得」としてまとめる特集記事をまとめた。
7社への取材では様々な心得を聞くことができ、印象に残るエピソードも多かった。その中でも特に印象的だった秘話を2つ、紹介したい。「『ゼロイチ』は情熱で生み出せ」「ささいな効果をないがしろにするな」のそれぞれに関するものだ。
その秘話はいずれも、三井住友ファイナンス&リース(SMFL)でDXの推進に携わっている藤原雄デジタルラボ所長の話だ。SMFLは「デジタル先進企業」を自社が目指す姿の1つに掲げて、社内でDXを推進している。これまでにAI(人工知能)を組み込んだOCR(光学的文字認識)を社内の与信審査業務に適用してきた他、様々な物件のリース事業に関連して資産管理SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)「assetforce(アセットフォース)」を提供するなどしてきた。
「どこを改善すれば使ってくれるんですか」と食い下がる
「『ゼロイチ』は情熱で生み出せ」の「ゼロイチ」とは「ゼロからイチを生み出す」の略で、これまでにないシステムやサービスの原型を、試行錯誤を経て生み出すことを意味している。この場面では、ユーザーから「こんなサービスをつくって意味があるのか」といった疑問の声が上がることがある。「『ゼロイチ』は情熱で生み出せ」という心得は、「何が何でも使わせてみせるという情熱を持って、疑問の声をはじめとする難局を突破していく」ことを指す。
藤原所長がこの心得を重視する背景には、自身の経験にまつわる秘話があった。藤原所長はかつて在籍していた外資系金融機関で、基幹系システムの導入プロジェクトに携わった。すると、営業部門のキーパーソンから「こんなシステムを使って仕事をしていくことになれば、(システムの操作に手間がかかるといった理由で)営業目標を達成できない」と猛反発を受けた。
当時の藤原所長はここで「ではシステムのどこを改善すれば使ってくれるんですか」と食い下がった。これに対しキーパーソンは「業務に必要で複雑なある計算処理ができるようにしてほしい」といった要望を出した。藤原所長は「この人が反対し続けると周囲にも影響が及びプロジェクトはうまくいかない。他の人が使わない機能であっても追加しよう」と考えて、その翌日、計算ロジックをシステムに組み込んだ。