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 「長時間労働に歯止めをかけるのは確かに大切です。でもそれだけでは現場が得したとはいえませんよね」――。

 「働き方改革」という言葉が広まって1年余り。筆者の主な取材先であるIT企業でも、長時間労働を減らす取り組みなどが増えてきた。国会では働き方改革関連法案を巡る議論の真っ最中。罰則付きの長時間労働の上限規制を盛り込んだ法案が可決されれば、長時間労働の歯止めとなる効果が期待される。

 ただ、国会での議論やIT企業がアピールする働き方改革を見聞きしても、筆者は「何か足りない」とずっと感じていた。そんな折、IT企業出身の業務改善コンサルタントである沢渡あまね氏から冒頭の指摘を聞き、筆者はなるほどと膝を打った。確かに「現場が得する」という視点が置き去りになっている。

 働き方改革の関連法案や企業の取り組みについて、IT現場の目線で損得勘定してみよう。例えば罰則付きの長時間労働の上限規制は、果てが見えない残業という損を防ぐ効果を期待できる。残業漬けになりやすいシステム開発の現場などには重要だろう。ただし、いくら残業時間の上限が規制されても、業務量が以前と変わらなければ、自宅に仕事を持ち帰る「隠れ残業」が増えるだけ。現場からすると「損を防いではくれるが、得とまでは言いにくい」といったところではないか。

 経営層からの号令で進める働き方改革で目に付く「20時以降の残業禁止」などのルールも同様だ。得するどころか、「早く帰れ、でも仕事は終わらせろ」などと上司に迫られる「ジタハラ(時短ハラスメント)」という損を誘発しかねない。

 もっとも、法案そのものや、企業がトップダウンで打ち出す“改革”にケチをつけ続けても、現場が得する働き方改革が実現する保証はないし、むしろ振り回されるばかりの可能性が高い。いっそのこと、現場が主導して働き方改革を仕掛けるのはどうだろうか。どんな働き方であれば得をするのかは、自分たちが一番よく知っているはず。しかもIT人材であれば、プログラミングや業務分析など、得を生み出すスキルを身に付けている。

 では、現場が得する働き方改革はどう進めればよいだろうか。沢渡氏によると、アプローチは2つあるという。1つは「面倒な作業をやらずに済むようにする」こと。面倒な作業から解放され、時間の余裕という得を生み出せる。もう1つは「自分たちがやりたいことを増やす」アプローチだ。やりたいことに充てる時間は、まさに自分たちにとって得そのものだ。