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 iPhoneの製造受託を手掛ける台湾・鴻海精密工業(Hon Hai Precision Industry)が電気自動車(EV)のプラットフォーム(PF)を開発すると発表して半年足らず。PFの開発組織に加入した企業数が早くも800を超えたようだ。「爆速」での拡大ぶりに、自動車の製造に水平分業という新風を吹かせる鴻海への注目度の高さがうかがえる。日本の自動車産業にとって、鴻海は敵か味方か。

EVプラットフォームを開発すると発表
EVプラットフォームを開発すると発表
(出所:鴻海精密工業)
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27年にEV販売シェア10%目指す巨大サプライチェーン

 鴻海は2020年10月、EVのPF「MIH EV Open Platform」の発表とともに、PFを開発する組織を立ち上げた。「オープンなアライアンス」をうたい、部品メーカーや半導体メーカー、クラウドベンダー、ソフトウエアベンダーなど800社超が集まる。EVの巨大サプライチェーン(部品供給網)を構築しつつある。

 米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス)や英Arm(アーム)、スウェーデンAutoliv(オートリブ)、中国・寧徳時代新能源科技(CATL)など欧米中の有力企業に加えて、日本からNTTや村田製作所、日本電産、ロームなどが参加する。さらにプラットフォームの中核技術の1つと位置付ける自動運転ソフトを提供するのは、日本の新興企業であるティアフォーだ。

 多くの企業を引き付けるのは、鴻海が掲げる目標が莫大であるからだ。同社董事長の劉揚偉氏は、27年に世界のEV販売シェアの10%を獲得するとぶち上げた。ティアフォー創業者の加藤真平氏は「大量のEVに自ら手掛ける自動運転システムを広げる好機」と意気込む。

 自動車業界で10%のシェアは、トヨタ自動車やドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン、VW)と同じ規模を意味する。鴻海自身は自社ブランドのEVを手掛けないだろうが、生産規模でトヨタやVWといった世界トップ級を目指すわけだ。壁は果てしなく高いが、スマートフォンの快進撃を自動車で再現することをもくろむ。

 一方でMIHの取り組みは、参加企業にとってEVの部品や制御ソフトをコモディティー(汎用品)化させることで低価格化を推し進める厳しい側面がある注)。鴻海は「低コスト化により競争力を高めることは、MIHの利点だ」と強調する。コモディティー化するEVに供給する部品や技術の供給でどう利益を得るのか、参加企業は難しいかじ取りを余儀なくされる。

注)ハードウエアの基本仕様は公開されており、例えば全長は4410mm、モーターの最高出力は130kW、電池容量は50kWhで、日産自動車「リーフ」に近いサイズ感である。

 既存の自動車メーカーにとって、MIHの存在は悪夢かもしれない。自動車開発の参入障壁を大きく下げることにつながるからだ。車体の設計や生産をほとんど全て委託できそうで、これまで自動車を開発していなかった新規企業の参入を簡単にする。新しいEVブランドの「増殖装置」といえて、無数の競合企業を生みかねない。