九州南方から台湾の北東にかけて広がる南西諸島は、中国による台湾有事で攻撃目標となる可能性が高く、防衛体制の強化が急務だ。地質条件が特殊なので、「防御陣地」の構築に当たっては、民間企業が持つ土木技術の活用が欠かせない。
軍事侵攻を受けて海空戦力が劣勢に回れば最終的に、陸上自衛隊が防御陣地を構築して、上陸してきた敵を食い止める。「防御陣地は国土の占領を防ぐ最後の砦(とりで)であり、その構築は絶対に必要な技術だ」。ある元陸自幹部は、こう話す。
陣地では、地表面の掘削や資材の設置によって、ミサイルの爆風などから隊員や装備品、弾薬を防護して敵部隊を迎え撃つ。しかし、軍事リスクが増す南西諸島一帯は、陣地構築の難度が高い。琉球石灰岩と呼ばれる硬軟の混ざった地層が広がり、硬い岩盤に当たると重機による掘削に数日かかることもある。有事では、悠長に構えてはいられない。
そこで陸自は、地表に資材を積み上げて陣地を構築する考えを持つとみられる。実際、南西諸島に配置した部隊には、膜構造物メーカーの太陽工業(大阪市)が開発した折り畳み式の箱型鋼製カゴ枠「ソイルアーマー」を配備済みだ。災害用途の民生品を転用したもので、カゴ枠に現地の土砂を充填して連結することで、簡単に陣地を構築できる。
ただ、ソイルアーマーだけで万全というわけではない。南西諸島は、カゴ枠の充填に適した砂質土が乏しい。先の元陸自幹部は、「陣地構築の選択肢を増やすには、民間土木技術の導入を進めることが有効だ」と指摘する。