私事で恐縮だが、昨年(2022年)の9月に新車の購入契約をした。現在使っているクルマは順調なものの、購入後16年を過ぎて自動車税と自動車重量税が上がっていることや、75歳に来る運転免許更新の壁までの残余年数を考えると、頃合いだと考えた(図1)。車種は、家人の希望に沿って、国内自動車メーカーTのSUV(Sport Utility Vehicle)であるHになった。Hに関しては、納期が1年以上とか、マイナーチェンジ版への変更を迫られて契約時よりも購入金額が上がったとかなど、ネット上で購入者の嘆きが飛び交っていた。
筆者が契約したとき、納車予定は今年(2023年)の5月中旬と販売店(ディーラー)から言われた。ネット上に書き込まれた納期に比べると短いものの、「随分先だなぁ」というのが正直なところだった。そのディーラーから連絡が来たのは今年の2月。納期先延ばしの連絡かと思いきや、意外にも、納期が1カ月ほど早まって4月中旬になるという連絡だった。新型コロナウイルスのパンデミック初期に、中国向け自動車生産の大幅な増減に端を発した車載半導体不足がそろそろ緩和してきたことは、同半導体大手の1社であるルネサス エレクトロニクスの会見で聞いていた。この不足緩和の恩恵に筆者もあずかれたということだろう。
半導体不足は解消しているかをどうかを確かめようとディーラーに質問したところ、Hの上位グレードは受注停止のままだという(記事執筆の3月上旬時点)。私が契約したグレードにはない機能を、上位グレードは複数備えている。例えば、車名のイルミネーション機能や、シートやハンドルのヒーター機能である。これらの機能には、成熟したプロセスで造る半導体が関係しそうだ。先端よりも成熟したプロセスの製造ラインにおいて、需給が厳しい状況が続いているというルネサスのコメントと一致する。
Tier 1ではモノ余りが始まっている
車載半導体不足はいつ頃解消するのだろうかと考えていたところ、ガートナージャパンが報道機関向けに「2022年の半導体市場総括と2023年見通し」というタイトルの説明会を2023年2月20日にオンライン開催した。その中で、車載半導体市場の見通しを同社のシニア ディレクター、アナリストである山地正恒氏が示した。米Gartner(ガートナー)では、山地氏をはじめ複数のアナリストがそれぞれの担当領域を受け持ち、半導体市場の分析や予測を行っている。山地氏は車載半導体や日本の半導体メーカーを主に担当する。結論を先に紹介すると、この記事のタイトルにあるように、同氏によれば2024年に車載半導体は調整期に入る。すなわち、売り上げの伸びが鈍ったり、減少したりする。
以下、2022年の数字から順を追って説明する。山地氏によれば、2022年の半導体世界市場は、下期に大きく減速したものの、通期では前年比1.1%成長して6017億米ドル(約84兆7000億円)に達した(図2)。ただしアプリケーションによって状況は異なり、コンピュート(PCなど)と無線通信(スマートフォンなど)向け半導体市場は、それぞれマイナス8.4%とマイナス3.8%といずれも縮小した。一方好調だったのは、自動車と有線通信向け半導体市場であり、それぞれプラス22%とプラス24%で拡大した。
次に2023年の半導体市場予測である(図3)。山地氏によれば、2023年は半導体市場は調整期となり、前年比6.5%縮小するという。その中で独り勝ちのように見えるのが車載半導体である。12.6%増と前年に続いて2桁成長を維持するという。しかし、注意が要る。この成長の大半は受発注残によるものだからだ。半導体が調達できないためにクルマの生産が止まった事態の再発を避けようと、自動車メーカーや電装品メーカー(いわゆるTier 1)は、キャンセルができなくとも1年以上前からの先行予約に走った。
その反動が来ていると山地氏は指摘する。「契約してしまった以上、購入せざるを得ないが、Tier 1では製品によっては半導体がだぶついてきた」(山地氏)。この結果、2023年における車載半導体の新規受発注は減少し、2024年の車載半導体市場は調整期になる、という。半導体全体に対して車載半導体の調整期は1年後ろ倒しになる。