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 副社長ポストを廃止する大胆な組織体制の変更を打ち出したトヨタ自動車(以下、トヨタ)。経営スピードを速め、若い経営者を登用して、100年に1度とも言われる変革期を乗り切る狙いを込めた。主導したのはもちろん、同社社長の豊田章男氏だ。好業績であるにもかかわらず、大胆なリストラクチャリング(リストラ)へと自身の背中を押したのは、同氏が抱く危機感だ。だが、果たして豊田氏の筋書き通りにいくだろうか。関係者への取材を進めるといくつかの課題が見えてきた。

 新たな組織体制では、社長の下に同格の執行役員がずらりと並ぶ。この組織体制の変更がうまくいくか否かは、執行役員の腕に大きく依存する。意欲の高い執行役員であれば、とても動きやすい。社長の許可を得さえすれば、現行の副社長と比べて大きな裁量を持ち、かなり自由に動ける可能性が高まるからだ。現在は各副社長に明確な担当が設定されており、他の副社長の管轄する領域(縄張り)に入り込むことができない。

トヨタ自動車社長の豊田章男氏
トヨタ自動車社長の豊田章男氏
豊田氏は右から2番目。(写真:トヨタ自動車)
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 トヨタの組織は極めて日本的なところがあり、社内で相手(上司や役員)の顔を立てたり、顔色をうかがったりすることにこだわり過ぎるきらいがある。事実、「あの人に恥をかかせるわけにはいかない」「あの人の手前、出過ぎたまねはできない」といった言葉を同社の役員やOBからよく聞く。そのため、業務を遂行する上で他の副社長の領域に立ち入ることはまずない。

 副社長の役割にも曖昧さが残っている。部下である現行の執行役員の仕事には口を出せるものの、どこまで言ってよいかは執行役員との関係性次第というところがあるという。例えば、執行役員の代わりに指示を出すと、社員は副社長と執行役員の指示のどちらに従うべきか混乱してしまう。そのため、副社長がどこまで言及してよいか判断に迷うというのだ。

属人的な要素でばらつきが生じるリスク

 だが、トヨタの従来のやり方を変えたり枠組みから外れたりしないと、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリングサービス、電動化)はもちろん、スマートシティーのような大きく新しい変化に対応できない。そのため、副社長の間にある「壁」を新たな執行役員によって打ち破ろうというのが、豊田氏の考えなのだろう。

新しい組織体制
新しい組織体制
社長の下、21人の同格の執行役員が並ぶ。「チーフオフィサー」と「カンパニープレジデント」、「地域CEO」、「各機能担当」の4つに分けるが、役割は固定せず、その時々で適任者を配置する考え。(作成:日経クロステック)
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 実は、トヨタの現行の組織では、自動車に関連する事業(クルマの開発・生産・販売)以外は付帯的な事業に見られる傾向がある。本業である自動車関連事業の負荷が日々高まり、人員も不足気味なのに、「なぜそんな事業を行うのか」と疑問に感じる社員が結構いるようだ。副社長にも自動車関連事業の出身者が多い。そのため、新規事業を提案されてもそれに精通していないことから、「採算はどうなのか」と詰め寄ってしまいがちだ。

 新規事業は業績面の“垂直立ち上げ”が難しい上に、売り上げや利益を正確に予測することは困難だ。採算性への回答という壁を越えられず、新規事業の芽はよく摘(つ)まれてしまう。これに対し、新しい執行役員は社長直轄で動けるため、現行よりも新規事業を立ち上げやすくなるという。

 だが、それも執行役員の能力に大きく依存する。本人が「改革者」であればよいが、保守的な場合は新規事業をうまく立ち上げられないか、立ち上げるスピードが遅くなる。執行役員次第、すなわち「人」に依存するということは、執行役員が担当する分野ごとに、成果やスピードに大きなばらつきが生じるリスクもあるということだ。

 これまでトヨタは1人の優秀な人間に頼らず、社員全員の平均的な能力を高める方法を採ってきた。新しい組織体制は、属人的要素をできる限り排除してきた従来のトヨタの考えとは一線を画すものだろう。