この数カ月間、脱炭素や再生可能エネルギー、そして水素社会関連の話を聞かない日はないほど、日本や世界でエネルギーを改革しようという動きが活発になっています。
特に日本でその主力電源の1つになると考えられているのが洋上風力発電システム(以下、洋上風力)です。日経クロステックと日経エレクトロニクスでは、日本でも洋上風力を大規模に導入する動きが急速に進んでいることを2020年8月に特集「いきなり風力発電大国」で報じています。
2020年10月に、内閣総理大臣の菅義偉氏が国会の所信表明演説で2050年までの温室効果ガスの排出を実質ゼロにする、と発言したことを受けて計画にはさらに弾みがついたようで、資源エネルギー庁は、2040年に洋上風力発電を最大45GWにするという目標を2020年12月に掲げました。
ただし、世界からみるとこの目標は決して特別高くありません。例えば、英国は菅総理の所信表明演説の少し前に、2030年時点での洋上風力の導入量の目標をそれまでの30GWから40GW(うち、浮体式風力は1GW)に引き上げました。同国の現時点での導入量はまだ8GW超でしかなく、残り9年で32GW分を追加導入するというのはかなり野心的です。
このほか、ドイツやオランダなどの共同の計画として2050年までに北海に100GWの洋上風力を導入する計画も進んでいます。
だから日本ももっと高い目標を……、と話が進みそうですが、逆に最近はかなり強い批判も多数聞かれるようになりました。特に、ネット世論における洋上風力発電への“風当たり”は非常に強いようです。
批判には定量的議論がない
こうした批判の主なポイントは、「欧州と違って遠浅の海が少ない日本では洋上風力発電は向いていない」「欧州のような安定した風が日本では吹いていない」「季節間の風況の差が大きすぎる。冬はともかく、海が凪(なぎ)になる夏はどうする?」「台風はどうする?」といったものでしょう。
これらはそれぞれもっともな指摘といえます。確かに日本は欧州と比べれば遠浅の海は少ないし、風の吹き方も安定していないし、台風などの脅威も否定できないのです。ただし、だから100%だめ、という結論にはなりません。どこにどれぐらいまでなら導入できるか、という定量的な議論が必要です。
日本の風況や洋上風力の導入可能量(または導入ポテンシャル)については、観測データに基づく定量的な評価をまとめた報告書が、環境省、経済産業省、そして経済産業省傘下の研究機関である新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などから、早いものだと10年以上前(東日本大震災の前)に出され、しかも何度か改訂されています。NEDOは、「風況マップ」という海上の詳細な風況を海底の地形情報などと合わせて表示するWebサイトを2006年に初公開。今は特に洋上風力についてより詳しい情報を載せた「洋上風況マップ(NeoWins)」を公開しています。
環境省による導入可能量のデータによれば、日本の風力発電の導入可能量は16.9億kW(1690GW)と膨大です。そのうち、洋上風力は14.1億kW(1410GW)。同省による太陽光発電と陸上風力発電の導入可能量の合計が約6.4億kW(640GW)であるのに対して、洋上風力発電の可能性がいかに大きいかが分かる数字です。
この導入可能量は、現在の技術水準や施工可能性なども考慮して決めているので、十分リアリティーのある数字といえます。
洋上風力だけで日本の消費電力量の4倍に
1410GW分の洋上風力の年間発電量は、仮に設備利用率が商用化時の採算ラインといわれる30%だとすると、約3705TWh。現在の日本の年間電力消費量は980TWh前後なのでその4倍弱となります。少し以前はこうした試算に対して、「日本で風況の良い地域は北海道などに偏っており、そこからそんな膨大な電力を送れる送電線はなく、整備しようとすれば膨大なコストがかかる」という批判が出てきたのですが、だからこそ水素に脚光が当たっているのです。送電線で送りきれない分は水素、またはアンモニアなどの水素キャリアに変換し、貯蔵、運搬することで出力変動問題や送電線の容量問題を回避できます。
再生可能エネルギー(再エネ)と水素を組み合わせて使うことで、再エネの主要な課題を解決しつつ、必要電力量の供給はもちろん、燃料や熱利用を含む1次エネルギーの大部分をカバーできる可能性さえあるわけです。