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 従業員67人ながら、トヨタ自動車の1次サプライヤー(Tier1)に上り詰めた自動車部品メーカーがある。浜松市の国本工業だ。プレス機と金型を駆使してパイプ材を加工する独自技術により、複雑形状のパイプ部品を軽量化しつつ低コストで量産する強みを持つ。だが同社の特長は加工技術のみにとどまらない。1980年ごろからデータ活用の重要性を見いだし、システム開発力まで身につけた同社の姿勢からは学ぶべき点が多い。

 モーターを冷却する油を循環させるモータークーリングパイプなどを生産する国本工業の主力ラインは、多関節ロボットがプレス機や検査機の間を仲介して部品を受け渡すことで生産を自動化している。整然と一列に並んだ機械が協調して動き、人手を介さずわずか十数秒で複雑な部品を形作っていく様子は圧巻だ。この自動化により「通常であれば80~170人ほど必要な製造現場の人員を30人弱に抑えられている」(国本幸孝会長)という。

主力製品のラインを多関節ロボットにより自動化している
主力製品のラインを多関節ロボットにより自動化している
(写真:日経クロステック)
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 近年、同社はデータやAI(人工知能)を巧みに使った生産監視システムの自社開発に取り組み、ラインの省力化や生産効率改善、保守・メンテナンスの効率化を進めている。

 生産監視システムではまず工場内の各所にモニターを設置し、自動化ラインにおける生産計画や進捗、不良数、ライン停止数といった情報をリアルタイムに確認できるようにした。例えば材料のパイプや製品を入れる箱が一定量を下回った場合はセンサーで検知し、補充を促す。国本工業では1人の従業員で複数ラインを担当する。従来であれば他ラインの検品中で気づけないようなタイミングでも、モニターで材料などの投入を促すことでラインの停止を未然に防げるようになった。

生産監視システムでは自動化ラインの状況をリアルタイムに確認できる
生産監視システムでは自動化ラインの状況をリアルタイムに確認できる
(写真:日経クロステック)
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 さらにラインの停止や不良はグラフによる分析が可能で、どんな加工で問題がありそうか見当を付けられるようにした。問題が予想される箇所にカメラを設置しておけば、問題が再現した際に該当部分だけを抽出してスロー再生などで確認できる。実際にロボットによる部品供給に問題があった際にはこの仕組みを活用し、効率的な真因の分析と改善ができたという。

 今後はラインの各所にセンサーなどを置いて機械や金型の保守・メンテナンスに活用する計画だ。具体的には生産数などを基に機械の保全や部品交換、消耗品の追加などを自動で促すようにし、部品の品質向上や経験や勘に依存しない保守・メンテナンス体制の構築を目指す。