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 水と二酸化炭素(CO2)から液体合成燃料(e-fuel)を一貫製造するプロセス技術。産業技術総合研究所(AIST)が研究開発を進めているという話を聞いて思い出したのが、旧日本海軍の「水からガソリン」詐欺事件のことだった。

 水からガソリン詐欺事件とは、太平洋戦争開戦の約3年前に当たる1939年1月、「水をガソリンに変える方法を発明した」とする詐欺師を日本海軍が呼んで実験させた一件を指す。戦後になって「水からガソリンはできないという程度の化学知識さえ持たずに、当時の海軍首脳部が詐欺師の話に安易に飛びついた」と批判の対象になった。

 その海軍首脳部とは、海軍次官の山本五十六中将、航空本部教育部長の大西瀧治郎大佐(実験責任者)など、現代でも名前をよく知られている人々である。この事件が世の中に知られた最初は、阿川弘之著『山本五十六』(参考文献1)の記述といわれる。

* 山本五十六は、太平洋戦争開戦時には大将で連合艦隊司令長官、戦死後元帥。大西瀧治郎は、のち第一航空艦隊司令長官として「神風特別攻撃隊」を創設、中将で終戦を迎え、翌日に割腹自決。

 最近になって、書籍『水を石油に変える人~山本五十六、不覚の一瞬』(山本一生著、参考文献2)が出版された。同書の著者が新たに見つけた、大西瀧治郎による報告書によって実験の状況が明らかになっている。同実験に関して戦後に出てきた批判については「山本五十六も大西瀧治郎も亡くなっており、生き残った者たちの、恐らく都合のよい記憶だけで書かれていると感じた」2)(同書あとがき)と、著者は違和感を記している。

 同著の著者同様に自分も違和感を覚えていた。新幹線をはじめ、戦後の日本が発展する過程で旧海軍関係の技術や技術者が活躍した事例は少なくない。科学的な常識さえ海軍首脳部は持ち合わせなかったと言われても、どうにもしっくりこないと思っていた。

記念艦となっている日本海軍の戦艦「三笠」(本文と直接関係ありません 写真:123RF)
記念艦となっている日本海軍の戦艦「三笠」(本文と直接関係ありません 写真:123RF)
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