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 電気自動車(EV)向け全固体電池の早期量産は難しいとの見方が強まるものの、同電池は実現しない「夢の電池」ではない。自動車メーカー各社は量産時期として2028年前後を見据え始めた。これまでの見立てから遅れるし、当初は少量生産だから、本格的な量産は30年以降だろう。それでも「ゆっくりとしたゲームチェンジ」を起こせる可能性は十分ある。

日産自動車による全固体電池を搭載した電気自動車(EV)のイメージ。既存の液系リチウムイオン電池搭載車に比べて床下を薄くし、乗降性を上げて室内空間を広げられる(出所:日産自動車)
日産自動車による全固体電池を搭載した電気自動車(EV)のイメージ。既存の液系リチウムイオン電池搭載車に比べて床下を薄くし、乗降性を上げて室内空間を広げられる(出所:日産自動車)
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 全固体電池のEVへの応用が注目を集めたきっかけは、東京工業大学特命教授の菅野了次氏が11年にリチウムイオン伝導度が高い硫化物系の固体電解質を発見したことだ。その菅野氏は30年以降の本格量産という最近の見通しに対して「当初想定していた時間軸」と話し、これまでの期待が高すぎたとみる。

硫化物系固体電解質の材料
硫化物系固体電解質の材料
トヨタ自動車が2012年に公開したもの(撮影:日経Automotive)
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 菅野氏は、EV向け全固体電池の量産化に向けて「大きな問題が残るわけではなく、小さな課題を1つひとつ地道につぶしている段階」とみており、そう遠くない将来に実用化できると見込む。「液系リチウムイオン電池では多くの研究者が少しずつ改善した結果、山積みの課題がいつの間にか解決していた」と菅野氏は振り返る。全固体電池も同じというわけだ。

 例えば硫化物系の固体電解質を使った全固体電池の場合、積年の課題といえるのが、電極と固体電解質を密着させることや、固体電解質の耐水性を高めることである。

 密着性が低いと電池を充放電させたときに負極が収縮・膨張し、徐々に電解質との間に隙間ができてしまう。また硫化物系は水と反応すると、有毒な硫化水素ガスが発生する可能性がある。製造工程で水分を完全に抑えようとすれば、コストがかかってしまう。

 菅野氏は、密着性の向上には材料の改良という本質的な解決を目指した研究が進む一方、大きな圧力をかけて電極と固体電解質を拘束する“工学的”な解決法も有力とみる。耐水性向上の研究は盛り上がる分野で、例えばスズ(Sn)やシリコン(Si)を添加する研究などがあり、着実に進化しているという。