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 店頭にタケノコが並び始めると春の訪れを感じるのは筆者だけではないだろう。旬の春こそ天ぷらや刺し身などさまざまな調理方法で楽しみたくなる。しかし、竹が厄介者となっている地域もある。放置された竹林が山を侵食し、森林の荒廃や獣害の発生につながっているからだ。

 竹は地下茎から毎年新しい竹を発生させ、数カ月で成長する。最もタケノコの生産力が高いのは3~4年目の地下茎であるため、5年を過ぎると伐採される。こうして定期的に伐採されている「整備竹林」に対し、適切に管理されていない「放置竹林」が問題だ。竹林面積が全国で最も多い鹿児島県の北西に位置する薩摩川内市は、有り余る竹を有効活用し、地方創生と課題解決を両立しようとしている。

左は2012年3月時点の竹林面積と分布状況、右は竹林面積が多い府県。林野庁は07年から5年ごとに森林資源の現況を調査している(資料:林野庁)
左は2012年3月時点の竹林面積と分布状況、右は竹林面積が多い府県。林野庁は07年から5年ごとに森林資源の現況を調査している(資料:林野庁)
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 日経アーキテクチュアの2020年3月12日号では「設計者がザワつく驚異の建築材料」と題して新素材について特集。その中で、竹などの植物を原料とするセルロースナノファイバー(CNF)についていくつかの事例を取り上げた。最初に紹介したのが、竹からつくったCNFで強度や耐久性を高めた塗料や樹脂サッシを開発し、実際に薩摩川内市の集合住宅に設置して性能を検証する取り組みだ。

日経アーキテクチュア2020年3月12日号の特集「設計者がザワつく驚異の建築材料」で、竹や木材など植物を原料とするセルロースナノファイバーについて取り上げたページ(資料:日経アーキテクチュア)
日経アーキテクチュア2020年3月12日号の特集「設計者がザワつく驚異の建築材料」で、竹や木材など植物を原料とするセルロースナノファイバーについて取り上げたページ(資料:日経アーキテクチュア)
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(関連記事:特集 設計者がザワつく驚異の建築材料

 取材のため19年10月に、「CNF建材」が設置されている市内の集合住宅を訪れた。集合住宅のすぐ近くに山が迫っており、濃い緑色の森林に、薄い黄緑色の竹林が重なって見える。山を侵食した竹で日陰が増え、イノシシやシカのすみかが増える。さらには、荒廃した山には十分な食料がないため、イノシシなどが山から下りてきて畑を荒らすなどの獣害が発生しやすくなるという悪循環が発生している。

 「昔は家の裏山で竹を育て、食器や道具、簡易な物置などさまざまな物をつくっていた。それらが安くて加工しやすいプラスチックに置き換わり、竹が必要なくなってしまった。かつては山と竹林と畑の境界があったが、今はない。放置された竹林が山を侵食し、木々の間に入り込んでいる」と、薩摩川内市商工観光部で次世代エネルギー対策監を務める久保信治氏が説明してくれた。

鹿児島県薩摩川内市営の集合住宅の1戸で、地元の竹を原料とするCNF(セルロースナノファイバー)を活用した建材を設置し、実験を行っている。写真中央に広がる薄い黄緑色の林が放置された竹林(写真:環境省)
鹿児島県薩摩川内市営の集合住宅の1戸で、地元の竹を原料とするCNF(セルロースナノファイバー)を活用した建材を設置し、実験を行っている。写真中央に広がる薄い黄緑色の林が放置された竹林(写真:環境省)
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 筆者の地元は薩摩川内市から直線距離で70キロほど離れたところにあり、同様の自然環境や気候、歴史、文化を持つ。市内のどこからでも山が見え、かつては濃い緑色の山が続いていたが、近年はどの季節に見ても枯れたような黄緑色の葉が占める面積が増え、不思議に思っていた。取材を通して竹害が深刻化していることを改めて知り、竹林を管理し続ける仕組みの必要性を強く感じた。