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 新型コロナウイルス禍であらためて分かったのは、自動車産業が日本の製造業を支えているということだった。一方で、その自動車産業が必ずしも盤石ではないと思わせる出来事も起きている。

(出所:Anesthesia/PIXTA)
(出所:Anesthesia/PIXTA)

過剰な検査をやらせていた?

 1つは、曙ブレーキ工業で発覚した検査データの不正問題である。国内の自動車メーカー10社に供給していた製品において、顧客報告用の検査データで改ざん(外れ値を中央値や過去実績値に書き換え)や偽装(過去データの流用)といった不正があった。その期間は実に20年弱、不正な検査データは11万件以上に及ぶ。

 曙ブレーキ工業に弁解の余地はないが、筆者が着目したのは製品そのものの品質に問題はなかったという点である。不正発覚後、同社は再検査を実施したが、強度や耐久性などの安全性能は同社内部の基準を満たしていた。つい最近まで顧客の自動車メーカーから指摘されたこともなかった。

 裏を返せば、自動車メーカーが曙ブレーキ工業にやらせていた検査の基準は過剰だったことになる。そして、同社はそれをよく分かっていたからこそ、不正に手を染めたのだろう。

 もちろん、過剰な検査基準が一概に悪いわけではない。例えば、新製品の初期生産時などに、検査基準を厳しめにしておくということは十分にあり得る。しかし、それが20年近くも続いていたとなると、どこかで見直す余地があったのではないか。

 日本の自動車メーカーの強みは、自社のみならずサプライヤーの生産ラインまで熟知し、コストを1円単位で把握していることともいわれる。もしそれが本当なら、自動車メーカーは曙ブレーキ工業の件において、過剰な検査基準を自ら緩めるとともに、管理コストが減少した分だけ値引きを要求していてもおかしくない。だが、実際には過剰な検査基準が20年以上も残っていた。担当者レベルでは気づいていた可能性もあるが、結果的に組織としては一歩も動けなかった。

 こう考えていくと、曙ブレーキ工業の件は、自動車メーカーの強みが失われつつあることを象徴しているケースと筆者は捉えている。自動車メーカーがサプライヤーの生産ラインを隅々まで知り尽くしているというのは、かつては実際にそうだったと思うし、今も基本的に間違っていないだろう。しかし、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)対応などで戦線が拡大する中で、既存のサプライヤー管理まで手が回っていない状況がうかがえる。