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 かつてないほど国内のパワー半導体業界が動いている。2023年3月23日、東芝は国内ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)による買収を受け入れた。出資企業には次世代パワー半導体「炭化ケイ素(SiC)」国内最大手のロームが名を連ねる。

 ロームの主力事業は大規模集積回路(LSI)とパワー半導体だが、全体として家電など比較的小電力を狙った製品が多い。対する東芝は、小電力の製品も持つが、電車や電力用インフラなど大電力向けの商品群も取りそろえ、ロームが持たないモーターも手掛ける。もちろん、電力会社や鉄道メーカーなどへの太いパイプがある。ロームにしてみれば喉から手が出るほど欲しい顧客層や技術だろう。

 こうした事情に加えて、ロームの東芝買収への参加の裏には、経済産業省の後押しがあったとみられる。同省はSiC関連の2000億円以上の設備投資に限り、最大3分の1を資金援助する取り組みを2023年1月に打ち出した。1社では気軽に出せない2000億円という金額を設定し、業界再編の動機付けとする。現に、ローム単独のSiC設備投資額は最大1700億円(2021年度~2025年度までの累計)だが、東芝のパワー半導体部門を合わせれば2000億円を超える確率が高く、助成の対象となる。

 再編ではないが、2023年3月14日には三菱電機が設備投資額を従来の1300億円に上乗せし、2600億円としたことを発表した。「増資の判断材料にこの助成金があった」と考えるのが自然だろう。

 去年パワー半導体の企業幹部や研究者たちの会合を取材した際、皆が口をそろえて政府の消極的姿勢を嘆いていた。「政府の半導体戦略に満足している人はほとんどいないだろう」「海外では工場建設に当たって政府が数百億円も資金援助するのに……」「国内のSiC勢が全滅する可能性すらあり得る」などなど。今年に入り、ようやく政府が大胆な方針を打ち出したことで、業界が活性化してきたわけだ。