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 「○○Pay」といったキャッシュレス決済サービスのチャージとして、給与の一定額を受け取れる「給与デジタル払い(ペイロール)」。これが2021年春解禁になる見込みと日本経済新聞が2021年1月に報じ、金融業界だけでなく一般にも話題となった。閣議決定で「2020年度のできるだけ早期の制度化を図る」としており、2021年3月ごろに始まるのではないかとみられていた。

 しかし、その雲行きが怪しい。

 原因は、労働者側の強い反発だ。ペイロール解禁には労働基準法施行規則の改正が必要で、厚生労働省の労働政策審議会(労政審)労働条件分科会で議論を進めている。労政審では、労働者代表、使用者代表、公益代表の3者が議論する。その中心といえる労働者側代表は、銀行口座と同等の安全性や補償を主張し、キャッシュレス決済サービスを提供する資金移動業者自体の安全性についても問いかける。

参入企業がいなければ規制改革も意味なし

 一方、厚労省側は労働者の安全性をどのように確保するかという要件を議論したいが、なかなかその議論に進展していかない。

 労働者代表は、労働者保護を錦の御旗に立てる。「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」という労働基準法24条第1項で示す通貨払いの原則による。賃金は労働者の生活の糧で、この原則は全額確実に労働者の手に渡るようにするためのもの。銀行振込は例外として認められているものの、それよりもリスクが高ければペイロールは受け入れられない、とする。

 この主張には異論を差し挟めないだろう。キャッシュレス決済サービスが銀行と同等に機能し、そのサービスの質を担保する保証を求めているといえる。

 問題は、「銀行と同等」の捉え方だ。

 一言で銀行と同等といっても、幅がある。もし、改正の内容が資金移動業者にとって参入のハードルを上げるものになれば、参入企業は少なくなり、改革の意味を失う。決着が延びるよりも、むしろ大きな問題だろう。

 安全性だけ考えて追求していけば要件は厳しくなる。そのため、資金移動業者が破綻しても労働者が賃金を受けられるように何らかのフェイルセーフや、懸念される問題が起こりにくいような仕組みに加え、労働者における利便性の向上や資金移動業者が事業に参入する意義といった面も含めて要件を検討すべきだろう。

 だが、労政審の議論では、労働者の利便性向上や資金移動業者による事業参入のしやすさなどは、あまり加味されない。なぜか。