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 およそ半年後の2018年9月29日、「特定労働者派遣(特定派遣)事業」制度が廃止になる。これは派遣制度の1つで、届出だけで派遣事業を開業できる制度だ。多くの下請け中小IT企業は特定派遣事業者でもあるため、この制度変更が直撃するのではないか。筆者はそう考えて以下の記事を執筆した。

 詳細は記事に譲るが、主旨は「特定派遣の廃止で、技術者派遣事業を手掛ける下請け中小IT企業は窮地に追い込まれる」といった内容だ。この記事に対して、アクシアの米村 歩(すすむ)代表取締役から「特定派遣が廃止になっても、下請け中小IT企業への実際の影響は小さいのではないか」との指摘を受けた。

アクシアの米村 歩 代表取締役
アクシアの米村 歩 代表取締役
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 米村氏は様々な立場でIT業界に関わってきた。キャリアのスタートは新卒で入社した元請けIT企業の技術者。アクシアを設立する前は1年間フリーランスとして働いた。現在代表を務めるアクシアは完全自社開発、残業ゼロを売りにするが、かつては下請けの立場で長時間労働が蔓延する状態だったという。そうした経験から、IT業界の一筋縄ではいかない事情を知り尽くしている。

 米村氏の主張を要約すると「下請け中小IT企業が手掛けるのは特定派遣事業だけではない。SES(システムエンジニアリングサービス)事業も同時にやっている。偽装請負の問題をはらみつつ、SES事業でしぶとく生き残っていくのではないか」といったものだ。

 SESとは主に準委任契約で技術者の労働力を時間単位で提供する事業形態。技術者を現場に送り込む「客先常駐」という点では、派遣と大差ない。ただ、派遣と違って、発注側が請負(準委任)側のメンバーに直接指示すると偽装請負という違法行為になる。偽装請負は何度も問題になっているが「未だに手を染めているIT企業が多いのではないか。ソフトウエア開発の下請けとなるSESはほとんど偽装請負と言われかねない状況だ」(米村氏)と指摘する。

他社の技術者を“販売”して儲ける

 問題の根本にはIT業界の「多重下請け構造」への依存がある。ユーザー企業が発注した仕事を元請けとなるSIベンダーが受注し、それを「協力会社」や「ビジネスパートナー(BP)」と呼ばれる中小IT企業に再委託する構造だ。中小IT企業は別の中小IT企業やフリーランスにさらに再委託する場合もある。元請け、1次下請け、2次下請け、3次下請け……と層がいくつもあるため、多重下請け構造と呼ばれる。

 この構造下で、悪名高い「人売りIT企業」と呼ばれても仕方がない企業がはびこっている。技術者を元請けSIベンダーや上流の下請けIT企業に“販売”するかのような業態だ。偽装請負の温床となっているのがまさにこれ。「技術者が1人もいない自称開発会社もある。社員は社長と営業担当だけで、よそから調達した技術者を他社に売って中間マージンで儲けている」(米村氏)。

 多重下請け構造、人売りIT企業は長年問題視されてきた。にもかかわらず、長年温存されてしまっている。この原因について、米村氏は(1)元請け企業の事情、(2)下請け企業の事情、(3)IT業界の企業間の仁義、の3つが絡み合っていると分析する。

 元請け企業の事情とは、自社で抱える技術者を限定的にしたいというものだ。ITプロジェクトの案件数は景気に応じて変動する。プロジェクトに応じて下請けから技術者を調達する構造にしておけば、不景気で案件が減っても人件費で圧迫されるという会社側のリスクを小さくできる。まず、この段階で元請け、下請けという関係性を維持したいという力が働く。

 下請け企業の事情とは、売り上げを大きくしたいというものだ。「より小さいIT企業やフリーランスから技術者を調達してSIベンダーに売ると、それだけで中間マージンを取れる」(米村氏)。人売りIT企業の立場からすると、ひどい言い方になるが“商品”となる技術者をより多く取り扱える方がいい。となると、下請け構造を多重にしたいという力学が働く。