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 保険や宇宙といった様々な分野にじわりと、しかし確実に、ある技術の導入が進んでいる。それが「予兆テック」だ。

 予兆テックは製造業の工場や化学プラント、電力やガス、鉄道といったインフラでは早くから活用されてきた。生産設備や産業機器に振動センサーや温度センサーなどを取り付け、収集したデータを基に人工知能(AI)で通常時の稼働状況に関するモデルを作成しておく。さらにリアルタイムにデータを取得し、異常を検知した場合にアラートを上げることで、修理や保全など早めの対策を講じるというものだ。故障を未然に防ぐことに貢献する。

 この予兆テックに注目する企業が増えている。産業は異なっても、予兆テックは「データを収集しAIなどを用いて異常を検知する」という点で共通している。各業界での予兆テックを見てみよう。

発電所30カ所強に匹敵、15万個のセンサーでデータ収集

 まず宇宙分野での予兆テックだ。航空機や宇宙船の開発製造を手がける米Lockheed Martin(ロッキード・マーティン)は2021年3月、宇宙船開発においてNECのAIを本格導入すると発表した。米NASA(米航空宇宙局)の月探索計画「Artemis(アルテミス)」に向けて開発中の有人宇宙船「Orion(オリオン)」の異常検知にAIを活用する。

米ロッキード・マーティンが開発している宇宙船「Orion(オリオン)」
米ロッキード・マーティンが開発している宇宙船「Orion(オリオン)」
出所:NEC
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 今回導入するAIはNECの「インバリアント分析技術」だ。インバリアント分析は時系列の数値データを対象に、正常な期間の計測データからセンサー間にある不変的な関係性のモデルを構築し、リアルタイムに取得する計測データから異常を発見する機械学習技術である。

 温度や電流、振動などの多数のセンサーから通常時(正常時)のモデルを作成。AIがシステム全体をモニタリングして通常時と異なる振る舞いをした場合に自動で検知し、障害の根本原因を特定する。「宇宙船に15万個のセンサーを取り付け、220億以上の論理的な関係性をAIで抽出した」とNECのコーポレート事業開発本部の相馬知也シニアマネージャーは話す。ホワイトボックス型のAIを使っており、分析結果に解釈をつける。

宇宙船オリオンからの収集データを分析する様子
宇宙船オリオンからの収集データを分析する様子
出所:NEC
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 同技術をロッキード・マーティンの宇宙部門であるロッキード・マーティン・スペースのデータ分析システム「T-TAURI(ティータウリ)」に統合して、宇宙船の設計や開発、製造、試験段階におけるシステムの異常予兆を検知するという。

 NECはインバリアント分析技術を発電会社JERAの持つ火力発電所や日本製鉄といった製鉄会社などへすでに導入している。今回宇宙船に取り付けた15万個のセンサーは、規模でいうと「日本中の大規模発電所を全てカバーするくらい」(相馬シニアマネージャー)だという。発電所1カ所あたりセンサーは4000個ほど設置しており、宇宙船のセンサーでモニタリングするデータ量は発電所30カ所強を一度に状態監視することに匹敵するという。

 NECの宇宙システム事業部の三好弘晃事業部長代理は「宇宙船はフライト前に地上で十分試験を実施してから飛ぶため、フライト後に異常が起きる可能性は非常に低い」と説明する。一方で、地上ではつくりだせない環境との相互作用が宇宙空間では起き得る。例えば太陽風(プラズマ)が飛んでいるため、宇宙船の表面が帯電するなどの事象が軌道上で起きることがある。AIを使ってこれらの異常を検知できるようにする。