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 建設現場は特殊だから、他の産業よりも事故が起こるのは仕方ない――。

 業界を挙げて「死亡事故ゼロ」に向けた安全対策に取り組むなか、ひそかにこう思っている人は少なくないだろう。恥ずかしながら、筆者も心のどこかで思っていた。しかし最近の取材で、そういう甘い考えと決別する時代になったと実感することになる。

 2020年2月、人と重機の接触リスクを減らすシステムを取材するため、熊本県阿蘇市で清水建設・東急建設・森工業JVが施工する山岳トンネルの現場を訪れた。「Safety2.0(協調安全)」という新しい安全の概念に基づき、先端技術を使って人と機械が協働できる環境の構築を目指していた。セーフティグローバル推進機構(IGSAP)が掲げる考え方だ。

 現場では、AI(人工知能)やカメラ、センサーを駆使して、狭い坑内を動く重機と人の位置や動線を管理している。作業員が重機の作業エリアやオペレーターの死角に侵入すると、照明や音を使って自動で警告する。五感に訴えることで、ヒューマンエラーに伴う事故を確実に防ぐ。

熊本県阿蘇市で清水建設JVが施工中の滝室坂トンネルの坑内。切り羽付近の重機の作業エリアに許可されていない作業員が侵入すると、自動で照明の色が切り替わったり、警告音が鳴ったりする(写真:日経コンストラクション)
熊本県阿蘇市で清水建設JVが施工中の滝室坂トンネルの坑内。切り羽付近の重機の作業エリアに許可されていない作業員が侵入すると、自動で照明の色が切り替わったり、警告音が鳴ったりする(写真:日経コンストラクション)
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山岳トンネルの現場では、狭い坑内で作業員や大型の重機が交錯する(写真:日経コンストラクション)
山岳トンネルの現場では、狭い坑内で作業員や大型の重機が交錯する(写真:日経コンストラクション)
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 従来は、人の判断に委ねた安全管理が多く、人の動く範囲と機械の稼働範囲とを物理的に分けるといった対策が中心だった。立ち入り禁止エリアの設定や指さし呼称の徹底といったルールをどれだけ厳しく定めても、作業員の危険回避力は体力や精神状態に左右される。ヒューマンエラーをどうしても根絶できないために、「事故が多いのは仕方ない」という気持ちが根付いてしまったのだろう。

 清水建設JVの現場では、人の注意力が及びにくい場面での事故を諦めずに食い止めようという強い意志が感じられた。さらには、それを実現させる技術の進化を目の当たりにして、建設業界の死亡事故撲滅は決して夢ではないと思った。「屋外で常に自然の脅威にさらされる」「現場ごとに異なる環境や人員に対して一貫した安全対策が取りにくい」――。こういった言い訳はもはや通用しないのだと。

大型の重機の操縦席から見える景色。周囲に作業員がいても、操縦席からは見えない死角が生じてしまう(写真:日経コンストラクション)
大型の重機の操縦席から見える景色。周囲に作業員がいても、操縦席からは見えない死角が生じてしまう(写真:日経コンストラクション)
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