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 産業分野の加熱や冷却工程などに使う産業用ヒートポンプは、排熱を有効に活用して高効率に熱を供給できる。このため、産業用ヒートポンプは化石燃料由来の熱源を電化しつつ、消費エネルギーを大幅に削減できる技術として、しばしば「カーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)の切り札」などと呼ばれてきた。ところが、いまひとつカーボンニュートラルの潮流に乗り切れていない。

図 ヒートポンプを使った廃水処理熱回収システム
図 ヒートポンプを使った廃水処理熱回収システム
廃水処理に伴って発生する熱をヒートポンプで利用する。(写真:日本エレクトロヒートセンター)
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 「カーボンニュートラルの切り札などと言われているわりに、普及が進まない」(日本エレクトロヒートセンター)――。ヒートポンプとはその名の通り「熱をくみ上げる」装置。エアコンや「エコキュート」などで家庭でも広く使われている。産業用でも排熱をうまく活用すれば投入電力の何倍ものエネルギーの熱を取り出せるとして期待されている。

* 日本エレクトロヒートセンターは、産業用ヒートポンプの普及に取り組む一般社団法人。

 しかし、2021年度の産業用ヒートポンプの導入台数はおよそ700台。年間導入台数は全体的に増加傾向にはあるものの、「本来ならば倍々ゲームにしなければいけない」(同センター)と、いまひとつ利用が広がらない点に不満を隠さない。実は、思うように普及が加速しない原因には、産業用ヒートポンプメーカーを悩ませる“ある問題”が関係している。

図 産業用ヒートポンプ年度別導入台数
図 産業用ヒートポンプ年度別導入台数
(出所:日本エレクトロヒートセンター)
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冷媒規制が技術進歩の足かせに

 ここ数年、産業用ヒートポンプメーカーは、製品開発に際し「冷媒規制への対応もしている」(日本エレクトロヒートセンター)という。冷媒として優れた性能を持つフロン類は、オゾン層の破壊や地球温暖化など地球環境への影響が大きい。このため、「特定フロン」と呼ばれるクロロフルオロカーボン(CFC)とハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)は既に生産が規制されている。「代替フロン」と呼ばれる現在主流のハイドロフルオロカーボン(HFC)についても、地球温暖化係数(GWP)がより低いハイドロフルオロオレフィン(HFO)系や二酸化炭素(CO2)、アンモニア(NH3)などの「グリーン冷媒」への早期移行が求められている。

 しかし、こうした低GWP冷媒は、性能の面ではフロン類と比べて劣る点が多い。グリーン冷媒を使った新製品は、「性能が後戻りしてしまうか、現状維持となる」(同センター)という。特に近年はエネルギー価格が高騰し、よりエネルギー効率(COP)の高い製品へのニーズが高まる中で、COPの向上や低価格化など環境対応以外の技術進歩の停滞が、普及の足かせになっていると指摘せざるを得ない。

 さらに、グリーン冷媒に移行した装置においても、価格が高い、取り扱いが難しいなど普及に向けた課題が残る。例えばHFO系のR1234yfは微燃性(2L区分)であるため、使用する際は換気のためのファンや、漏洩に備えた警報器の設置が必要となる。冷媒自体の価格も代替フロンと比べて高い。CO2冷媒においては、システムの圧力が比較的高いため、それに耐える部品は必然的にコストが上がり、装置の価格が高くなってしまう。NH3には毒性や刺激臭、爆発性など安全面でのリスクがあって取り扱いが難しい。