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 「もうディオール(DIOR)展行った?」――。近ごろは友人に会うたび、あいさつ代わりのようにこの言葉が交わされる。東京都現代美術館で、2022年12月21日から23年5月28日まで開催している「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展のことだ。日時指定の予約優先チケットと、当日券の両方とも早期に完売するほどの盛況ぶりである。

 展覧会では、西洋のファッションブランドとして初めて日本に進出したとされるディオールの、75年を超える歴史や作品をたどる。これまで、フランスや英国、米国、中国など世界各国を巡回してきた。展示ストーリーに共通の要素を持たせながらも、開催地ごとに作品や空間演出を変えて展示している。

「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展の導入部分「クリスチャン・ディオール、芸術からファッションへ」。創設者のクリスチャン・ディオールがメゾンを創業する前に経営していたギャラリーの写真が使われている(写真:日経クロステック)
「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展の導入部分「クリスチャン・ディオール、芸術からファッションへ」。創設者のクリスチャン・ディオールがメゾンを創業する前に経営していたギャラリーの写真が使われている(写真:日経クロステック)
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クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ展の展示「ディオールと日本」。「ねぶた」に使う和紙を用いて壁面を作成した。日本庭園をイメージしたデザインだという。創設者のクリスチャン・ディオールが日本からインスピレーションを得てつくったオートクチュールの作品や、日本のシルクを使ったドレスなどを展示する(写真:日経クロステック)
クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ展の展示「ディオールと日本」。「ねぶた」に使う和紙を用いて壁面を作成した。日本庭園をイメージしたデザインだという。創設者のクリスチャン・ディオールが日本からインスピレーションを得てつくったオートクチュールの作品や、日本のシルクを使ったドレスなどを展示する(写真:日経クロステック)
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 日本では、世界的に著名な設計事務所OMAのパートナーである重松象平氏が空間演出を手掛けた。写真家の高木由利子氏が撮り下ろした写真や、切り絵アーティストの柴田あゆみ氏による切り絵など、日本のアーティストが手掛けた作品も展示している。展示作品は1100点以上と盛りだくさんだ。キュレーターはフロランス・ミュラー氏が担当した。

クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ展の展示「ディオールが残したもの」。ふすまなど日本建築の空間構成からインスピレーションを受けているという。創設者のクリスチャン・ディオールの他、イヴ・サンローランやジョン・ガリアーノ、ラフ・シモンズなど、ディオールを率いたデザイナーごとに作品を展示している。部屋の奥に進むにつれて時代を遡る構成だ(写真:日経クロステック)
クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ展の展示「ディオールが残したもの」。ふすまなど日本建築の空間構成からインスピレーションを受けているという。創設者のクリスチャン・ディオールの他、イヴ・サンローランやジョン・ガリアーノ、ラフ・シモンズなど、ディオールを率いたデザイナーごとに作品を展示している。部屋の奥に進むにつれて時代を遡る構成だ(写真:日経クロステック)
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クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ展の展示「ディオールと世界」。左側のちょうちんは日本をイメージしたもの。右側に見えるドーム型の空間には、ドレスのパターンをプロジェクションマッピングしている(写真:日経クロステック)
クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ展の展示「ディオールと世界」。左側のちょうちんは日本をイメージしたもの。右側に見えるドーム型の空間には、ドレスのパターンをプロジェクションマッピングしている(写真:日経クロステック)
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 創設者のクリスチャン・ディオールがもともと興味を持っていたのは美術や建築だったそうだ。彼は両親の希望により外交官を目指すが、最初のキャリアは、友人と共同で開業したギャラリーの経営者だった。

 これと関連付けて、会場にはアンディ・ウォーホルの「マリリン・モンロー」など、東京都現代美術館所蔵のアート作品も展示している。ファッションや建築、アートといった様々な分野で輝いた、様々な時代のクリエーターの作品が体感できる。

クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ展の壁面に記された言葉の1つ(写真:日経クロステック)
クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ展の壁面に記された言葉の1つ(写真:日経クロステック)
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 クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ展の壁面の一部には、クリスチャン・ディオールの言葉が記されている。そのうちの1つが、次の言葉だ。「私のドレスは、女性の身体の美しさを引き出すための儚(はかな)い建築なのです」

 使い手のことを考えて設計し、使い手の魅力や活力を引き出す。ファッションと建築は隣り合わせなのだと改めて実感した。分野を超えた共創が新たな価値を生む。本展覧会は、その好例ではないだろうか。