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 浮いている、思った以上に浮いている――。空中に映し出されたトイレの操作ボタン映像を目の前に、思わず声が出た。空中の洗浄ボタンを「押して」みると、水が即座に流れ出した。まるで実在のボタンが宙にあるかのようだった(図1)。

図1 トイレに設置した空中浮遊操作パネル
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図1 トイレに設置した空中浮遊操作パネル
村上開明堂とパリティ・イノベーションズが共同開発した。裸眼で見た場合の立体感が写真では表現しづらいため、「苦労している」(村上開明堂)という。(撮影:日経クロステック)

 このSF映画のような、空中浮遊映像技術を用いた非接触インターフェースを開発するのは、自動車バックミラー製造大手の村上開明堂と、情報通信研究機構(NICT)出身スタートアップのパリティ・イノベーションズ(京都府精華町)だ。両社は新型コロナウイルス禍での非接触需要の高まりに応え、トイレの操作パネルなどへの同製品の導入を狙う。2021年に医療機関などに有償提供を開始し、22年の量産化を計画する。

 記者が驚いたのは、ボタンの映像が、裸眼で見ても宙に浮かび上がっているように感じた点だ。これまでも3Dテレビや3D対応の携帯ゲーム機などで立体映像に触れる機会はあった。一方で映像が若干飛び出している感覚は得られるものの、どこか立体感に物足りなさがあった。

 記者が立体映像という言葉から想像するのは、映画「スター・ウォーズ」に出てくるような、何もない空間に映像が浮かび上がるホログラムだ。同製品にはそれに近い感覚があった。

自動車用デジタルミラーがきっかけに

 同製品は、村上開明堂が空間タッチセンサーを、パリティ・イノベーションズが空中浮遊映像技術を担当している。量産化を主導するのは村上開明堂だ。

 「(開発の)きっかけの1つは、自動車用デジタルミラーの台頭だった」と村上開明堂 第二開発本部 先行開発室 主任研究員の浜野正孝氏は打ち明ける。デジタルミラーは、ミラー(鏡)の代わりにカメラ映像を映した画面で後方を確認する。自動車用ミラー以外の方向性も探るため、同社は17年からパリティ・イノベーションズと共同で空中浮遊映像技術の開発に着手した。

 宙に映像を浮かび上がらせる技術の核となるのは、パリティ・イノベーションズが開発した「パリティミラー」と呼ぶ光学素子だ。半透明のプラスチック板のような見た目のパリティミラーだが、その表面には樹脂製の光学素子が無数に並んでいる。ごく小さなプリズムのような構造を持った「2面コーナーリフレクタアレイ(DCRA:Dihedral Corner Reflector Array)」だ(図2)。「樹脂成型で一度に低コストで製造できる」とパリティ・イノベーションズ代表取締役社長の前川聡氏は語る。

図2 300mm角のパリティミラー
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図2 300mm角のパリティミラー
樹脂製の2面コーナーリフレクタアレイ(DCRA)で構成する。(出所:パリティ・イノベーションズ)