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 「面白い男がいて、今度うちで『ひとり情シス』の取り組みを発表するので、あなたも聴きに来ないか」。ある学会の会長からそんな誘いを受けて講演を聴いたのが、大手製造業の事業子会社でIT技術者として働く成瀬雅光氏との出会いだった。

 その講演内容は衝撃的だった。「10人いたIT部門がリストラで消滅。たった1人残された技術者(成瀬氏)が200台のサーバーを管理し、複数の業務システムを内製できるまでになった。その取り組みとは」。大変申し訳ないことだが、学会発表を聴くと途中でまぶたが重くなり、やがてコクリ、コクリ…というパターンが多いのだが、この日は違った。「こりゃ、すごい。この事例を多くの人に知らしめよう」と冴えた頭で考えていた。

 既に「ああ、あの連載のことね」とお気付きの読者も多いかと思う。ITpro(現・日経 xTECH)に2016年10月から連載した「ひとり情シス顛末記」はこうして生まれた。IT部門の消滅というドラマティックな展開に加えて、「ひとり情シスは技術者にとって理想の環境」と成瀬氏が主張し、実際に理想のワーク・ライフ・バランスを実現したということで、大きな反響を得て足掛け9カ月に及ぶ長期連載となった。

 その成瀬氏が自身の技術者としてのノウハウをまとめた書籍『「ひとり情シス」虎の巻』(日経BP社刊)を出版したので、私も読んでみた。その結果、講演を聴いたり連載を読んだりした時には、どうにも腑に落ちなかった点が一気に解決した。腑に落ちなかった点とは、成瀬氏がクラウドサービスを活用しなかったことだ。というか、活用できなかったといったほうが近い。だが、その理由はイマイチ明確ではなかった。

 成瀬氏はOSS(オープンソースソフトウエア)などを活用して自ら仮想環境を構築し、200台以上の物理サーバーを仮想サーバーに移行させることで、1人で管理することを可能にした。だから、技術上の問題でAWS(Amazon Web Services)などに移行できないはずはない。ITインフラのオンプレミスでの運用をやめれば、ひとり情シスの負荷低減にもつながるから、本来ならクラウドを使わない手はないはずだ。

 だとしたら、理由は社内の事情。成瀬氏は企業に勤める現役の技術者だから、社内の事情は言いにくいし書きにくい。そんなふうに私は推測していたのだが、書籍にはクラウドを採用できなかった理由が明確に書かれていた。まさに社内の事情。ただし、どの企業にも同じことが言える汎用性のある社内の事情だ。大企業のIT部門の人も「全くその通り!」と激しく同意することだろう。